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ドラムスっ子

 タイコを叩く音や叩く人が昔から好きだった。そういう私も叩くのが好きだ。いつぞや楽器博物館@浜松に「どうぞご自由に叩いてくだしゃんせ」てなアフリカだかアジアだか、涎の垂れそうなエスニック太鼓がそこかしこに置かれた一室があって、閉館間際だったせいもあろう、他の来館者がだーれもいないのをいいことに独り占め。なに。そろそろ閉館だと。無理無理。俺の手はもう止まらんよ。今しばらく没頭させてくれたまえ、館長。ぼかすかぼかすか、ぼんぼこぼこぼこ…。結局30分位叩きまくってたんじゃないかな。ああ堪能した。


 ところで、ピンク・フロイドのポンペイ・ライブで見せた「吹けよ風、呼べよ嵐」のニック・メイスン以外で印象に残るドラミングといえば…。

 うーん、「Live With Me」と「Hot'n' Nasty」のそれだな。ハンブル・パイというバンドだ。前者は『Humble Pie(大地と海の歌)』1曲目、後者は『Smokin'』やはり1曲目に収録されている。とりわけ「Live With Me」には出だしから、展開から、終盤へのなだれ込みから、もうずーーっと耳が釘付け。8分間もだぜ。スティーヴ・マリオットとピーター・フランプトン以外の名前を知らない不届き者は、しかしホントにこの二つのスピーカーから流れてるんかいな、と耳を疑ったものだ。大きさと音色の違う数々のタイコとシンバル群。さほど多くはないだろうそれらにぐるりと囲まれた「彼」はエンジニアがセッティングしたであろうマイクにその1ビート1ビートを刻み付けてゆく。繊細かつ大胆に。柔和かつ劇烈に。ゆったりとしたテンポは守りつつ、スピーカーの位置なぞ関係無いもんねとばかりに私が座る部屋に見事な空気が。空気が揺れるぞ。今のはバスドラか。こんな音って再現できるのか。しかしなんちゅう存在感だ。部屋に溢れるドラムスの大らかでいて引き締まった乾いた音。音。音。うう。なんで鳥肌が立つんだ。マリオットが絞り出すヤラしいボーカルとのマッチングを絶妙と呼ばずなんと呼ぶ。

 ドラマー、ジェリー・シャーリーが響かせるタイコの音はアルバム毎にかなり違っていて、これはプロデューサーというより、エンジニアの成せる技だったのだろう。という下手な想像はともかく、40年も前にレコーディングされたハンブル・パイの「Live With Me」。永久に朽ちない一品がここにある。


 他にも私を魅了したタイコ叩きは数多い。ツェッペリンならマンモスの足踏みを現代に蘇らせたジョン・ボーナムは1曲たりとも外せないし、バッド・カンパニーなら1stアルバムでスティックの先から精気ほとばしらせたサイモン・カーク。70年代最後に登場したザ・ポリスなら千手観音ばりのスチュワート・コープランド。「白いレガッタ」後半の畳みかけったらない。キース・ムーンもたじたじだぜ。ストーンズのチャーリー・ワッツならアルバム『Black And Blue』だけでも。そうそう、カレン・カーペンターの軽妙なドラミングにもどきりとさせられたんだった。


 この70年代フィールドだと、ドン・ブリューワー(グランド・ファンク)やジョーイ・クレイマー(エアロスミス)、それにイアン・ペイス(ディープ・パープル)だのロジャー・テイラー(クイーン)だのアレックス(ヴァン・ヘイレン)だの、はたまたブッチ・トラックス(オールマン・ブラザーズ)やドゥービー・ブラザーズのツイン・ドラムス←だれだっけ、なんかを思い出したいのだけど、ドラムスに限るなら、こうした連中にはこれといってぶん殴られたものが今思いつかない。残念。


 80年代に入ると、もう今ではとうに飽きてしまったものの、スティーヴ・リリーホワイトやヒュー・パジャム仕込みのドラムス音には狂ったな。彼らがプロデュースあるいはエンジニアを務めた例えばピーター・ゲイブリエルのそれ。中期XTCのそれ。ケイト・ブッシュのそれ。で、他は全滅。ガンズすらも。生ドラム不毛の80年代にあって、私がすがりついた唯一のタイコがフィルターを通した人工音というのは皮肉なものだ。

 90年代以降は、大らかさには欠けるも、青空に干したシーツのように乾いた、あるいは尾びれを海面に叩きつけるザトウクジラのようにずしりとしたドラムスが戻ってきた。初っ端が『The Bends』のときのレディオヘッド。『Replenish』のときのリーフ、特に「Choose To Live」。『Three Snakes And One Charm』で豊饒な汁を滴らせたときのブラック・クロウズ。アンクル・テュペロとそこから枝分かれしたウィルコとサン・ヴォルトなどなど。


 わが国にっぽんはどうなんだ。

 四人囃子の岡井大二、を思い出したぞ。鬼気を詰め込んだアルバム『一触即発』の「おまつり」やタイトル曲あたりは今でもうぶ毛をそそり立たせる。ぞぞぞ。つづく『ゴールデン・ピクニックス』ラストに収録された「レディ・ヴァイオレッタ」のミディアムテンポな叩きの味わい深さにもうっとりだ。

 時代はぐーーんと飛んで、斉藤和義97年発表の『ジレンマ』1曲目「僕の踵はなかなか減らない」には打ちのめされた。特に終盤、奥行きが広がったかのように打ち鳴らされるドラムスの前で身動きがとれなくなったんだ。「すっぱいぶどう」に見る不純物を一切含まないスティックの打ち下ろしにもヤラれたな。このアルバムは和義がすべての楽器を担当したと聞いている。そうなんだ。和義はドラムスで私を振り向かせたのだった。これがそもそも彼との出会い。以降、彼の世界にどっぷりハマることになり、現在に至る…というのはまた別の話。

 っと、森高千里を忘れてた。『Step By Step』に収録されたビートルズのカバー「あっしと手前の猿だけはお天道様にさらしても構わねえとおっしゃるんですかい皆様方…」はまんまビートルズだよ。千里のドラミングはまんまリンゴだよ。って、これは褒めているんですぜ皆様方。彼女の叩き方には無駄が無い。潔い。天晴也。普段、印象に残るようには見せなかったけど。これが案外深い。「渡良瀬橋」とかね。


 さて、最後にザ・ポリスの「ロクサーヌ」を添えて〆よう。スチュワートのドラミングってセクシーだ。サビをコーラスするときの彼はハチドリのようだ。…なんだまた動画かよ。などと言ってはいけない。ああ、いけないとも。本人もどうかと思ってるんだもの。かか。

Roxanne

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