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父娘

Shion_shiori
 三浦しをんのエッセーは、どれもが自分や友人、家族、あるいは日常のあれやこれやをすくっているだけだと思われる(まだ二冊しか読んでない)が、お茶目で、痛快で、自虐的で、際限がない。気がつけばするりと入り込んでいる妄想シーンは宇宙戦艦ヤマトの波動砲をもってしても止められないだろう。切り込みや着眼は自分のそれにひたすら忠実で、ペンは一見だらしなく運ばれる。それらがすべて心地よい。

 『人生劇場』に出てくる、戦後間もない頃じいちゃんがどこぞから持ってきたたくさんのコンドームの一つだけがべろーんと伸びたままになってた顛末云々の、茶をずずと啜りながら進むばあちゃんの回想、を含むしをんとの下ネタ談議なんか秀逸だ。

 『しをんのしおり』に登場する「高倉健の日常」は、健さんの起床シーンから始まるのだが、これでもか、これでもかと、微に入り細に入りどんどん進んでいく。勿論これは全部彼女の妄想なのだけど、あまりにも「らしく」て空いた口が塞がらない。膨らみ続けるこの妄想は誰にも止められないよなぁ。ていうか止めてほしくない。彼女が言うように、朝の入浴の描写なんかも続けてほしかった。

 かと思えば、こんなスケッチも彼女はする。


 最近ちょっと情緒不安定で、井の頭線に乗っている父娘の姿を見ただけで、なんだか涙があふれてきたりする。
 女の子の背丈はまだお父さんの腰ぐらいまでしかなくて、身じろぎもせずに父親にぺったりとくっついてドア付近に立っている。父親は小さな娘の肩に優しく手を乗せていて、たまに頭を撫でてあげたりする。彼女の髪の毛がこごっていることに気がついて、父親は指先でそっとほどく。女の子はその間も黙ったままで、すごくおとなしく安心しきって父親に抱きついている。彼女は電車の中でもう本当に自分の父親だけがすべてなんだなあ、と思ったら、ちょびっと泣けてきてしまったのだ。……後略……

━━『しをんのしおり』から「二度目の青い果実」より抜粋


 バレちまったよ。普段は無意識の中に閉じ込められていたはずの私の弱点、というかツボ。忘れかけていた私の急所。突然ほじくり返しやがって。押しやがって。一体なんなんだよぉ、三浦しをん。

 しをん御本人が云々に関係なく、この一節は私の琴線に触れ、うろたえさせ、大晦日最後の私の涙腺を緩ませてしまったのである。

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