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不意打ち

 いきなり来る。予想もしない場所に。予想もしていなかったときに。

 例えば、それは人と人との出会いだったりする。

 外国に遊びに行ったとしよう。南太平洋に浮かぶ島なんかいいな。ニュー・カレドニアとか、フィジーとか。日常から解き放たれた非日常的空間。空港に到着する。ロビーに出る。誰もが見知らぬ人ばかりだ。日本人らしき人がちらほら見えるけど、様々な言語や方言が飛び交っている。タクシーを捕まえようと建物を出た。あった。あそこがタクシー乗り場だ。先に並ぶ人がいる。その後ろに着く。その人がふと振り返った。

「あれ。つかけん!」
「ありゃ。○○○!」
「なんだなんだ。どうしてここにいるんだ」

 何が「どうしてここに」だ。それはこっちのセリフだよおまいさん。ああ、いやだ。非日常が一気に日常に引き戻される。うきうきした気持ちが途端に萎えてくる。なんでこんなところでこんなヤツに巡り合うのだ。ああ、来るんじゃなかった。

 不意打ちである。

 だが、まぁ、こういう不幸ばかりではない。私の好きな音楽を挙げてみよう。

 車の運転中、何気にラジオのスイッチを入れたとしよう。DJが何かを喋っている。あるいは、交通情報や天気予報かもしれない。

 いきなりそれは訪れる。

 T. Rexの「Summertime Blues」だ。突然流れてきたのだ。見(聴き)知った曲なのに、ものすごく新鮮だ。嬉しいのだ。るんるんなのだ。

 不意打ちである。

 それがどんなに有名であろうが、耳に馴染んだブツであろうが、まさかこんなところでこんなときに流れてくるとは予想だにしない。しようがない。瞬間絶句し、やがて嬉しくなる。幸せになる。


 それは同時に、何かを連想、回想させることであったりもする。

 例えば、チューリップの「サボテンの花」が不意に流れてきたらどうだ。たちまち10代の甘酸っぱさ、切なさ、後悔が溢れ出してくるのだ私には。吹田のアパートの。今もなお、だ。

 例えば、Boz Scaggsの「You Can Have Me Anytime」だったらどうだ。すぐさま北千住のとあるカフェへと飛んでしまうのだ私は。作り笑いを吹き飛ばしたあのとき、あの場所へと。

 例えば、グレープの歌(曲名いまだ知らず)がゆらゆらと漂ってきたとしたら。あっという間に西武池袋線は江古田駅近くの喫茶店に私は飛ぶ。コーヒーをかき回すスプーンが震えている。これが二人の終わりだと分かっているから。


 先日、新聞を流し読みしながら朝飯食っていると、いきなり森高千里の「渡良瀬橋」が耳に飛び込んできた。何だ不意に。目を向ければ、かけっぱなしのTVからだ。フジの『めざましテレビ』だった。

 この曲は、これまで、福岡は博多天神界隈のカラオケ・ボックスを思い出させてきた。私のすぐ目の前でこれをさらさらと、しかし一字一句ていねいに歌う人の声、表情、仕草、その一つ一つとともに。それが常だったのだ。

 その朝は、しかし全く違う景色が見えた。とある港町の、とある駅舎と夕焼け空。その駅舎へと向かう大切な人の後姿。何だ。何なんだ。こんな朝の忙しい最中に。これから仕事なんだぜ~。胸キュンさせやがって。

 かくして、「渡良瀬橋」の不意打ちが呼び起こすシーンは古いそれに上書きされ、更新されてしまったのである。

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Comments

なんだか素敵ですね。特に最後のエピソード、とても絵になる情景ですね。
無自覚の幸福感が漂いながらも、しかし非常に切ない。

Posted by: 階下の貴婦人 | Apr 22, 2009 at 22:00

そういえば、「駅」って不思議な場所ですね。たかが乗り物に乗るためにしか存在しないはずなのに、なぜか心浮き立たせ、旅情掻き立たせ、切なくさせ、悲しくさせる。駅舎に足を踏み入れた途端、日常から切り離される自分を感じたりすることがあります。
おっしゃる「絵になる情景」。に欠かせない場所の一つですね。

ところで、「不意打ち」の追加がありました。ハイファイ・セットの「星のストレンジャー/朝陽の中で微笑んで」がそうです。って、どこかで書いた気もしますけど。ふは。

貴婦人さんにも似たような「不意打ち」はあるのでしょか。

Posted by: つかけん | Apr 23, 2009 at 22:13

スイッチを入れたラジオから偶然想い出の音楽が流れると、当時の情景が鮮明に思い出す事がよくありますよね。

3年も前に別れた彼女に、出張先から飛行機で羽田空港から帰社途中のモノレールの中で再会した時-不意打ち-はびっくりしたな。coldsweats02

Posted by: moondreams | Apr 25, 2009 at 12:34

昔の彼女にモノレールで偶然出会う図…そりゃびっくりしますよね。向こうもこちらも。
「!!……」
「!!……。やぁ、元気?」
「うん。元気だよ。あなたは」
「ん。ぼくも」
「わたし、これから札幌に行くの」
「そう。風邪引かないようにね」
…みたいなやりとりがあったのでしょか。ぐふふ。


てなことよりも、moondreamsさんのコメントこそ私には不意打ちでした。むはは。嬉しかったです。

Posted by: つかけん | Apr 25, 2009 at 22:47

不意打ち…、それは一本の電話。
卒業式後、自宅でのんびり過ごしていると、その電話は掛かってきた。出てみると一ヶ月前に私を振ったあの子からだ。

第2ボタンはぼくの彼女にあげちゃったけど、第3ボタンがあるから、それを君にあげるよ。

なによ。なんなのよ。可愛い提案しやがって~。
そんな電話でのやりとりの後方で流れていた曲はドリカムの「あはは」でしたとさ。

Posted by: 階下の貴婦人 | Apr 26, 2009 at 06:57

その不意打ちを食らった貴婦人さんは、そんなことをすっぱり忘れたかの様に、後日、別の誰かに不意打ちをかけてたとしたら楽しいですね。これを「不意打ちリレー」と呼びます(笑)。

考えてみたら、人生は不意打ちの連続かも。打ったり打たれたり。そして夢は叶う。A Dream Comes True. むはは。

Posted by: つかけん | Apr 26, 2009 at 17:35

そのとおりですね。人生は不意打ちの連続ですね。
たとえばいきなり電話がきたり、たとえばいきなり手紙がきたり…。
不意打ちリレー。あるいは不意打ち返し。

●約束の時間より早く駅前に着く吾をすでに、キミ待っている。(初めてのデートにて)
●時間より、8分早く到着す。待ってないよと言う顔し待つ。(二度目のデートにて)

この歌の主人公たちも、不意を打ったり打たれたりして夢を叶えていきましたとさ。
ちゃんちゃん。

Posted by: 階下の貴婦人 | Apr 26, 2009 at 21:43

いいなぁ。情景が目に浮かぶ、なかなか味わいのある待ち合わせの図ですねぃ。

三度目はどうだったんでしょ。待ち合わせの場所をきちんと伝えられないまま、天然ナビ-それを人は勘と呼ぶ(笑)-によって相手の居場所を突き止め、やおら出現、な図とか。これなら間違いなく不意打ちですね(笑)。他にもイロイロなパターンが考えられそう。

Posted by: つかけん | Apr 27, 2009 at 16:30

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