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BOOKS 2008年の収穫・下

 一昨年出会った『かずら野』をきっかけとして、乙川ワールドにハマった1年だったように思う。っても、私の好きな長編物をさほど多く手がけてはいないんだね彼。結局、短編集ばかりが残ってしまった。手つかず。どうしよ。ちょっち苦手。


 <BEST5~8>

5 乙川優三郎  『霧の橋』

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 不運が不運を呼びこみ、侍の身分を捨てて故郷一関を追われる。野垂れ死に寸前にひょんなことから紅商人の跡取りになるも、どこかで侍を捨て切れないもどかしさ。そんな主人公惣兵衛を待っているのは運命のいたずらとしか呼びようのないあれやこれや。

 今で言う化粧具コンパクトを発明し、それが爆発的に売れるくだりにワクワクさせられるエンターテインメント性とある種「産み」の苦しみに貫かれる葛藤の重さ。それらがバランスよく配されていてぐいぐい読まされてしまう。

 苦労にもまれながら、やがて商いが軌道に乗り、いっぱしの商人になったかと思わせた終盤、突如「忘れて」いたはずの仇に出会ってしまい、「捨てて」いたはずの侍心を取り戻してしまう惣兵衛は…。

 人が「救わ」れるとはどういうことなのか。その一つの形を教えてくれる作品である。じんわりと心の襞に染み込んでくる種々様々な感情の帯が美しい。筆に品があるからこそ。


6 乙川優三郎  『冬の標(しるべ)』

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 明世という名の主人公は絵を描くことを生涯の夢に持つ。少女として、嫁として、妻として、母として世間に馴れることを強いられてきたが、20年目に限界は来た。それは同じ師を仰ぐ将来を誓った男との死に別れだったかもしれないし、幕末の激動期を越えてその先を進もうとする息子の姿だったかもしれない。画家というわが道をゆくにはあまりにも枷が多すぎた時代の一人の女性がそこにはいる。その遮二無二歩く姿が時代を飛び越えて迫ってくる。大河ドラマを駆け抜けた天璋院もよかったけど、こういう女性の生き方も遜色がない。

 情に流さず、凛とし、読後は清らかさに満たされる、これも乙川優三郎の色か。


7 恩田 陸  『エンド・ゲーム 常野物語』

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 「裏返す」、「裏返る」、「洗濯する」、「洗濯される」…。まるでオセロゲームのように超次元レベルで人間がこっちとあっちの世界を行ったり帰ったり。幼い頃のトラウマ。「洗濯屋」などという名称に代表される超能力を持ったフツウの人達。

 私達の日常の隙間に口を空けている異次元という非日常。今という世界は本当の日常なのだろうか。それとも向こう側こそが?

 シンプルなことばによって引き込む恩田ミステリー・ワールドの真骨頂。


8 真保裕一  『追伸』

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 祖父母や親のことを孫や子である私はどれだけ知っているのだろう。その時代に必ずあったはずの物語、ストーリーを。それを彼らは語らないから、という理由だけでこの問い掛けに対する答えの中味をさも当然だとうそぶいて生きてきたのだけど私は。…これからはどうなんだろう。

 それはともかく、手紙のやりとりだけで構成される使い古されたスタイルは、しかしこの作品に関してはなかなか効果的である。ただ、最後がさらりとしていてちょいと肩透かし。そこにたどり着くまでがあまりにも重厚だっただけに、どんな結末でこの作品は終わるのだろうと満を持して待っていたのだよ私は。

 ところで、手紙ね。10年ほど前にハマっていたパソ通に似ていなくもない。そのやりとりの濃密さったらなかった。もうああいう濃いコミュニケーションって成立しないんだろうかこれからは。いや、するはずだ…という声も上がるのだけど自分の中で。が、どういう場がそうなるのかまだ見えない。今や百花繚乱に過ぎたブログはどうなんだろう。はたまたSNSは。

 PS:真保裕一ならもう一つ、『最愛』も読んだ。もしかして著者には珍しいタイプの小説かな。姉弟間のいわゆる近親恋愛から目を背けず、真摯に向き合っている。いいぞ。新境地開拓だ。だがしかし、もったいない。って、主人公に感想を語らせ、説明させちゃダメだよ。読者を差し置いて。

 <次点>
・乙川優三郎  『蔓の端々(つるのはしばし)』
・白石一文  『心に龍をちりばめて』
・浅田次郎  『珍妃の井戸』

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