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BOOKS 2007年の収穫・下

 <BEST6~10>

6 白石一文  『永遠のとなり』

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 「生きるとはなんぞや」というのはもはや白石作品に欠かせない唯一にして不朽のテーマなんだな、と思わさせた。そうかい、そうかい。そこまでこだわるんかい。よーし、わかった。それならとことん付き合ってやろうじゃないか。と私を参らせるのだった。

 本作は、うつ病に向き合う主人公&癌とつき合うその幼馴染、の二人を軸にストーリーがゆるゆると流れていく。それにしても肩の力を抜いたこのゆったり加減はどうだ。劇的な展開なぞひとつもなく、日常の出来事が淡々と語られ、綴られていく。この作品を読みながら、主人公に合わせてゆっくり歩いている錯覚に襲われる。

 …と書きながら今手に取っているのは、『心に龍をちりばめて』だ。衝撃以外の何物でもなかったデビュー作『一瞬の光』に通ずる云々と聞いた。ホントか。ホントにそうなのか。でもあまり期待しないで読もう。って、あれを超える作品は二度と出ない気がする。


7 仁木英之  『僕僕先生』

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 これはファンタジーだ。美少女仙人といわゆるニートな若者の冒険の。作品中の会話が今風であり、サクサク読める。

 唐代?中国が舞台。王弁というだらだらと毎日を過ごす若者が、元少女?だった仙人との出会いと旅によって前向きに、というか、例えば『千と千尋の神隠し』の千尋が徐々にそうなっていったように、変わっていくストーリーと言ってしまおう。

 ニンゲン社会にはもうそろそろ仙人に代表されるような摩訶不思議な世界は必要でなくなってきた時代が訪れている、と踏んだ仙界の首脳達が地上にいる仙人達に撤収令を出すのだが、「少女」僕僕は王弁との触れ合いから、その人間臭さに惹かれ、帰ることを渋る。さて結末は。


8 福井晴敏  『平成関東大震災』

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 地震に遭ったらこういう風に行動しようね。を、平凡な人物を借りて等身大に、かつ、ときにコミカルにシュミレーションさせた小説。一気読みできる単行本の薄さが潔い。これもまたサクサク読めてしまう。

 ある日の営業を終えたサラリーマンが都庁ビル・エレベーター内で遭遇した大地震。そこから自宅まで歩いて帰り、被災後の生活までがつづられていくだけだが、章が終わるたびに挿まれる解説がなかなか。ぶっちゃけこういう風にしようぜ、てなある種の軽みが心地良い。小説としても、主人公にまとわりつく正体不明な20代の若サラリーマンの使われ方がよい。想定内とはいえ、その"落ち"もお見事。

 凡百の震災時・後のガイドブックより読みやすいのは皮肉なもんである。『終戦のローレライ』などの重厚で緻密な筆を得意とする筆者だけでなく、あらゆる小説家にとってこの作品は新境地の一つたりえないか。実験、あるいはいわゆる企画物の類で終わらないことを祈る。

 なお、解説を溝上恵氏に任せているのがこの小説を本物の"ガイドブック"たらしめている。


9 西川美和  『ゆれる』

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 登場人物の一人一人に語らせる手法を使っている。が、同じ人物が二度三度という風に状況に応じて交代するので、あくまでストーリーを主体にした手口であり、アイデア倒れを逃れているのはいい。同じ手法で私を不安のどん底に陥れた恩田陸の『Q&A』の完成度には遠く及ばないものの、今後にちょっと期待できそう。

 物語は、例えば黒沢明監督の映画『羅生門』と同様、真実がどこにあるのかは実はあいまいなものである、という「真実」を押さえつつ進んでいく。親子関係を縦線とした二組の兄弟(兄稔と弟猛、父とその兄)関係の愛憎模様とでもいうか。

 稔と猛二人の幼馴染である娘が吊り橋から川に落ちて死ぬのだが、ここから始まる心理描写が克明である。それぞれの兄弟関係の修復こそがこの作品のテーマなのかも。


10 堀川アサコ  『闇鏡』

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 南北朝終焉後の室町の京が舞台。検非違使庁に勤める腕っ節が強く恐もてのする役人を軸に展開するミステリー時代小説とでもいうのだろう。

 豪傑なくせに幽霊嫌い、というか臆病者の主人公龍雪がなんだかんだいいながら見事な謎解きを最後にしてみせる。

 幕府の侍所と朝廷の検非違使庁の確執などをごくたまに混ぜるなど、時代背景にさりげないスパイスを振りかけているところもよろし。

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