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BOOKS 2007年の収穫・上

 <BEST1~5>

1 浅田次郎  『蒼穹の昴』
  
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 清朝末期、西太后が実権を握っていた(握らざるを得なかった)宮中に上り詰めて行く幼馴染の青年と少年。かたや帝の親政を進めたい変法派と、かたや西太后をシンボルとする旧守派に分かれていく二人の運命は…。

 漢と満の流れだの、太監と官僚の関係だの、様々な切り分けを見せながら展開する清朝終焉手前の様子を浅田次郎が渾身のペンで描き切ったスペクタクルな長編時代小説である。毛色は違えど、映画『ベン・ハー』をとっさに連想させた。

 あっちこっち舞台を、それもときに時空を遡ることを含めて、ころころ変えていくものだから、あらら、と読者を道に迷わせるのが、しかし難点といえば難点かな。手紙だけで始まり、終わる章だって二つ三つ唐突に出てくるし。…ということは実は瑣末なことである。"次作"『中原の虹』にただ今突入中。


2 佐藤多佳子  『一瞬の風になれ』

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 神奈川県立春野台高校陸上部万歳。佐藤多佳子万歳。400Mリレーの真髄や魅力を爽やかな筆で描き切っている。一見へらへらしている陸上部顧問の味わいも効いているが、なんといっても神谷新二、一ノ瀬連、仙波、谷口若菜、根岸、桃内、鳥沢、守谷…、一連の高校生達ってば。

 『黄色い目の魚』に流れていた痛みほどではないにせよ、連中の醸し出す人間臭さ、青臭さがほろ苦く、甘酸っぱい。

 にしても、いいなぁ陸上競技。いいなぁ高校時代。いいなぁ佐藤多佳子。

3 小池真理子 『冬の伽藍』

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 ベタベタとは正反対な氷や雪のようなさらさら感と静謐さの支配するメロドラマ、というより恋愛小説である。というより純愛小説だ。

 展開が読めすぎるきらいはあるし、男女の結びつきこそがすべてを超越する、てな結論が、軽井沢の四季を背景に詩的に描かれていて、ちょっとこそばゆいのだが、凛とした筆の運びや3章各章で見せるくっきり異なる描写手法によって、読み出したら止まらなかった。「章」というものの意味をこれほど明確に知らせる作品を読んだことがないせいかもしれない。

 冬の浅間山をバックに雪が流れる軽井沢駅ホームを舞台にしたラスト・シーンの描写はこの作品中最も詩的である。長い長い「前戯」の末に待ちわびた「エクスタシー」の訪れを清らかで純粋な一遍の詩にしてしまった。さらにその先に続くであろう「本当の」ラスト・シーンを省くという小憎らしい手も使って。

 これまで素通りしていた小池真理子という作家にようやく目を向けた1年。『欲望』に渦巻く切ないエロスは、これは一体なんなんだ、で始まる2007年は、手当たり次第に彼女の作品に手を出させ、この作品にたどり着かせたのだった。


4 乙川優三郎  『かずら野』

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 信州は松代の貧しい足軽の娘、菊子が父親に「売られ」てから始まる彼女の人生。連れ合いは父親殺しの富治。彼に引きずられ、あちこち逃げ回る彼女の人生観がやるせない。時代は幕末へ向かう最中であったが、そんなことに彼女の人生は関係もなく、逃げ延びた地で懸命に生きる。最後のシーンに男と女の結びつきの深淵を見せつけられたような作品である。

 それにしても品があるんだよな。清々しささえ感じられるだよなこれ。なぜだろう。

5 宮部みゆき  『理由』

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 むむむ。力作というしかあるまい。インタビュー形式という手法で進む物語は、「現在→複数の過去→現在」という構成であるが、絡まり合ういくつもの縦線と横線だの、周到に用意された数々の伏線だの、こんなに出してどうする、な登場人物の数多さだの、によってとてつもない重厚さを醸し出している。それらのすべてがラストに近づくにつれ一つに収束されていく様が圧巻である。

 がしかし、裏を返せば力み過ぎのきらいはある。伝えるべきもの(テーマ)というか、核心の部分というか、の描写がこうしたノンフィクション的手法であるがゆえにあまりに弱くなってしまったとも言える。そこだけが惜しい。

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