« 81年の周辺 1 | Main | MUSIC 2006年の収穫 »

BOOKS 2006年の収穫

 <BEST5>
1 花村萬月  『二進法の犬』
2 カズオ・イシグロ 『わたしを離さないで(Never Let Me Go)』
3 浅田次郎  『シェエラザード』
4 福井晴敏  『Op. ローズダスト』
5 宮本昌孝  『風魔』

 Mangetsu_inu
一体何者なんだ花村萬月というやつぁ。

 初めて読んだのは『笑う山崎』だったはず。これはまぁまぁだった。他に比べれば、だよ。その後めくった『皆月』だの『風転』だの『渋谷ルシファー』だの『ゲルマニウムの夜』だの『ぢん・ぢん・ぢん』だの…は、なんだかなぁ。流し方がだらだらしてるんだよなぁ。どれもこれもが習作のような。か細い縦線、かすれた横線、見えない伏線。これでもか、これでもか、な暴力描写と精緻なセックス描写、を味わいたいときに読んでみよう花村萬月は。…程度な作家だったのだ。『二進法の犬』に出会うまでは。

 いきなり来た。それは。

 縦軸がぶれていない。複数の横線、伏線がくっきり引かれている。登場するのは一見腰の引けた堅気の主人公以外ほとんどすべてがヤクザである。これは、そのインテリ主人公と組長の一人娘の愛情物語といえばまぁそうだが、若頭との友情あり、父娘間の情愛あり、恥あり、倫理観あり、心の闇あり、タブーなんか知らんもんね、ないつもの突き抜けた性愛・暴力描写あり、それだけで一本の映画になっちまいそうな賭場のシーンあり、…とテンコ盛りな小説である。そのくせ散漫さとはまったく無縁だ。1000ページにおよぶ長編にもかかわらず一気に読ませてしまう。

 この小説の読後感はあれやこれや入り乱れて複雑なのだが、あえてひとつ選ぶなら、「切ない」。このことばに尽きる。この「切なさ」は、ふと白石一文作『一瞬の光』を思い出させた。『二進法の犬』の主人公鷲津と組長の娘倫子の間に生じ、紡がれ、流れてゆく空気は、『一瞬の光』の浩介と香折のそれに重なる部分があるんじゃないか。毛色は全然違うんだけどね。


 <次点>
 カズオ・イシグロ 『日の名残り(The Remains Of The Day)』
 高村 薫   『レディ・ジョーカー』
 藤崎慎吾   『ハイドゥナン』
 浅田次郎   『日輪の遺産』


 <未読・積ん読・机の上でお気の読>
 福井晴敏   『月に繭 地には果実』
 佐藤多佳子  『一瞬の風になれ』
 西川美和   『ゆれる』
 白石一文   『どれくらいの愛情』
 山本 弘   『まだ見ぬ冬の悲しみも』
 白川 道   『終着駅』
 佐々木譲   『駿女』

|

« 81年の周辺 1 | Main | MUSIC 2006年の収穫 »

Comments

「二進法の犬」!
初めて読んだ花村萬月がこれでした。途中、ちょっと泣けましたねぇ。
ええ、切なかったですぅ。
以来ガシガシ読み漁り、「ぢんぢんぢん」「笑う山崎」「惜春」などとともに
非常に印象深かった作品でした。
暴力シーンがねぇ、これは頭のなかででっちあげたものじゃないなー、
実際にその場に居合わせたか、まさに自分がふるったか、
いずれにしても場数踏んでないとこれは書けないでしょーとブルブルしたですよ、ワタシは。

というわけで、ずいぶんご無沙汰していますが、謹賀新年。
暮れにベースボールベアーにハマッたりしましたが、
洋楽現役復帰はありえそうにないワタクシです。
というわけで、ではまた忘れた頃に。わははー。

Posted by: まるこめ | Jan 03, 2007 at 12:41

ま、まるこめさん? 本物(笑)? 失礼しました。ぼ…もとい、つかけんです。
いやなに、ここはあれですから。オヤジはどこにいるのだ、な古本屋みたいな場所ですので。ほとんど放ったらかしですね店内。ふは。

そうですか。まるこめさんも『二進法の犬』は「切な」かったんですね。いやぁ嬉しい嬉しい。
巷に溢れ尽くした「癒し」系。そろそろ時代はこの「切な」系へと転回してもいいかも。
それにしたって萬月はこの作品がハバを利かせてますね。実測でも厚さ4センチ5ミリ。…突然なんなんだ。って、今しがた測ってみたんですよ。手元の文庫本を。ポケットにすら入らないまるで弁当箱みたいなこれ、はたして文庫本と呼べるのだろうか。
ね、確かにハバを利かせてるでしょ(笑)。

Posted by: つかけん | Jan 03, 2007 at 22:46

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11727/13313904

Listed below are links to weblogs that reference BOOKS 2006年の収穫:

« 81年の周辺 1 | Main | MUSIC 2006年の収穫 »