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マイ・オムニバス VOL.30 前

【さよなら70年代】 77~79年 5/6

01 セプテンバー / アース、ウィンド&ファイヤー
02 テイク・ア・チャンス / アバ
03 おしゃれフリーク / シック
04 マイ・ライフ / ビリー・ジョエル
05 アイム・セクシー / ロッド・スチュワート
06 マイ・シャローナ / ザ・ナック
07 ある愚か者の場合 / ドゥービー・ブラザーズ
08 ラヴィング・ユー・ベイビー / キッス
09 シャイン・ラブ / ELO
10 悲しきサルタン / ダイアー・ストレイツ

 70年代という響きが、色が、匂いが消えようとしている。

 少年は大学の入学式に臨んでいた。

 妙な違和感がある。どいつもこいつもスーツだの何だのでびしっと決めてきやがって。なんで。この格好じゃまずかったのかいな。まぁいいや。今さらどうにもならん。このまま座っちまえ。そもそも、手持ちの服といえばこのジーンズの他に何もないのだ。…ふーん、あれが学長か。ほう、あれが理事長か。理事長はなんだかやたら元気だな。学長より貫禄があるぞ。それにしてもなんて退屈なんだこのセレモニーは。

 式後、大学近くの下宿に戻った彼は近くの古道具屋で求めた中古のテレビのスイッチを入れ、畳の上に寝転がった。1ルーム1キッチン。月1万に届かない下宿代は当時の相場から見ても破格、というより論外の安さである。このアパートに郷里、清水の先輩がいることを知ったときは驚き、喜び、ほっとした。その先輩をはじめ、住人は入れ替わり立ち替わり状態、なアパートなのだとそのうち知ることになるのだが、彼は4年間この安下宿を動くことはなかった。

 少年は道場で弓を引いていた。

 スポーツといえば小・中学校時代、サッカー部で多少なりともしごかれたものの、高校に入ってからは文科系の軟弱なクラブの軟弱な湯にどっぷり浸かり、すっかりにやけた、もとい、ふやけた自分に「喝ーーーっ」。そうだ。大学では何かびしっとしたものをやるのだ。そういや同い年の従兄弟が弓道をやっていたっけ高校時代。いつぞや見た大河ドラマの平将門も弓引く姿が凛々しかっ…ホラ吹くんじゃないよ少年。袴姿の弓道部女子先輩方に目を奪われたのだとホントのことをなぜ言えない。へぇへぇ。おっしゃる通り。そういえば、マンドリン部の女の子も可愛かったので、どっちにすればイイ思いができるか迷ったんだった。むはは。結局袴姿に軍配を上げたものの、マンドリンの女の子の名前くらい、せめて学部だけでも聞いとくんだった。不覚。

 「ほらほら、そこの1年っ。何へらへらしてるの。しっかり正座して!」
 弓道部の女子先輩方、勧誘の時とはえらいちがうやんけ。(←当たり前) 男子先輩はそれに輪をかけて怖い。4年生なんて大人の貫禄があって、もう神様。しかし、彼は4年間このクラブを動くことはなかった。


 …などということをよそに、洋楽は流れていたのだ。が、色とりどりな果実を結んだはずの楽園70年代は終盤にきてすっかり様変わり。ロッド・スチュワートもストーンズも逆手に切り返すことでしか乗りきれなかったディスコという名の大嵐のすさまじさったら。しかも見よ。嵐が収まったあとの光景を。広がるのは見渡す限りの砂漠だ。AORという名の砂漠だ。なんということだ。時代が求めていたのはこれか。

 が、砂漠にはオアシスというものがある。井戸だってある。キャラヴァンが喉を潤し、涼をとり、来たるべき新しき波打ち寄せる海岸まで歩を進めるための。

 例えばザ・ナックの「マイ・シャローナ」。砂を蹴散らす無敵のリフとはこういうものなのだろう。こんな時代によくぞ登場したもんだ。地中深く刻み込むこのリフはときを超え、10年ほど前のベン・フォールズ・ファイヴやブレンダン・ベンソン、2年前の斉藤和義をして鮮やかに蘇ってしまった。ベン・フォールズ~やブレンダン~ならその性急なドラミングに。和義ならシングル「彼女は言った」でのボーカルに。どいつもこいつもマシンガンだよ。ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まったくその通りだ。

 そして例えばダイアー・ストレイツの「悲しきサルタン」。これも砂漠に色づく眩しい緑だ。ディラン新曲か、なんて巷に立つ噂など少年に届くはずはなかった。イギリスのバンドのくせにアメリカっぽい乾いた音を作る、なんて馬鹿馬鹿しい紹介も届くことはなかった。それが幸いしたか、真っさらの空き地に小屋を一つ建てることになる。軽く弾み続けるビートに乗る抑揚のほとんど無い旋律とその旋律なんかどうでもいいじゃねえか、な喋るような歌い方。これにマーク・ノップラーのリード・ギターが絡みついた瞬間、魔法は生まれた。収録アルバムの深みを知るに及び、建てられた小屋はペンキを塗られていった。アルバムといえば、後の『Brothers In Arms』も悪くないのだけど、マジックは1st『Dire Straits』と2nd『Communique』にこそ潜んでいる。


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Comments

こちらにコメントさせていただくのはなんと2年半ぶりです。
大変ご無沙汰しております。
今回の10曲、まさに自分が洋楽に目覚めた頃の曲ばかりで懐かしいです。
ナックもダイアー・ストレイツも結局ほとんど聴いてませんが、彼らの話題が採り上げられてるとやはり反応してしまいますね。
ダイアーは「Brothers In Arms」しか聴いてませんが、マジックが潜んでいるなら「Dire Straits」と「Communique」も聴いてみたいです。

Posted by: SYUNJI | Jun 10, 2006 at 00:12

こんにちは。ディスコ・ビードが全盛時、
R・スチュワートはともかく、当時
”ラヴィング・ユー・ベイビー”なんてキッスまでがなんでやるの~って思いました。今では懐かしい思い出です。
「ある愚か者の場合」M・マクドナルド色が強いとの批判がありますが、僕は好きです。

Posted by: moondreams | Jun 10, 2006 at 18:52

 やや、SYUNJIさんじゃありませんか。確か「日本一腰の引けた音楽評論を云々」ちゅうフレーズで私を魅了したSYUNJIさんじゃありませんか。こちらこそお久しぶりです。
 で、「マジックが潜んでいる」ね。えーと、私は「・」くらいのことを「●」くらいに書く輩ですのでお気をつけ下さい。ふは。激しい「思い込み」と「ハッタリ」に満ち溢れた書き込み。それが私のスタイルでございます(笑)。
 ところで、まもなく70sシリーズも終了し、ぼちぼち次年代に入るつもりなのですが、その80sエリアは滅法弱いのでして、イロイロ教えて下さいね。

Posted by: つかけん | Jun 10, 2006 at 19:03

 ややや、こちらはmoondreamsさんじゃありませんか。ごあいさつが遅れてすみません。
 ドゥービーに関しては今ではすっかり遠のいておりますが、ハマっていた時期がありました。アルバムなら例えば『キャプテン&ミー』の純度99%のメロディーに。『ドゥービー天国』のときに乾き、ときに湿った土の匂いに。『スタンピード』の躍動感と勢いに。『ドゥービー・ストリート』のJAZZY&FUNKYさ、そしてスピードに。特に「リオ」。他にも『運命の掟』のタイトル曲や『トゥールーズ・ストリート』の「キリストは最高」、そして『ミニット・バイ・ミニット』なら「スティーマー・レイン・ブレイクダウン」などに私の血は騒ぎ、腰を振らされたものです。

Posted by: つかけん | Jun 10, 2006 at 20:51

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