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箱根の夜霧とクリムゾン

 箱根である。天下の険と歌われた箱根である。昔も今もその呼称に変わりはないだろう。のぞみは穴を進むしかなく、フェラーリは遠回りするしかない。決して山越えをすることはないのだ。

 就職して間もない頃、大学時代の仲間に会うために駿河~江戸方面を幾度か行き来していた。新幹線も東名も使うことはしない当時の私の道は国道1号である。初めて買った車は否応無く箱根を登らねばならなかった。1200CCの三菱ミラージュは登坂には非力だ。しかしガソリン以外で金は使いたくない。高速自動車道はもとより箱根新道やターンパイクといった有料のバイパスも、だからダメだ。旧道を登るだけさ。がんばれ中古のミラージュ。

 箱根山中の道は所々狭く、くねくねと曲がっている。それに、季節にもよるがここは霧がよく立ち込めるのだ。車にフォグ・ランプが取り付けられたのはそれが理由である。

 いつだったか、大江戸を夜遅く発ち、駿河の国に一人で戻るときがあった。車は小田原を過ぎ、箱根の麓に到着する。日付は変わり、完全な真夜中であった。なぜかこのときカーステレオに差し込んだテープはキング・クリムゾンの『~宮殿』である。さあ来いよエピタフ。頼むぞミラージュ。

 ……だいぶ登ったかな。おっと、霧が出てきたな。道がよく見えない。ふふふ。このときを待ってたのだ。フォグ・ランプ、フォグ・ランプっと。…なんだよ、視界がクリアーにならないじゃないか(←当たり前)。相変わらず霧しか映しとらんっ(←思考低下)。こりゃ深いな。そろり、そろり。うーむ、一体どこを走ってるのだ。おいおい。

 回り続けるテープはこのとき「Moonchild」を流し始めていた。

 な、なんだこの曲。なんでこんなときにこんなのが流れるのだ。できすぎだっ。できすぎか。くそぉ、しずかちゃんを横取りされてなるものかっ。うーむ、明らかな思考低下だ。がしかし場に合った美しい調べではあるよこれ。うっとり…。こらこら、目を閉じてる場合か。前を見ろ。生きて駿河に帰るのだ。
つづく

Crimson_court

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