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マイ・オムニバス VOL.26 前

【欲望】 76年 5/8

01 ショー・ミー・ザ・ウェイ / ピーター・フランプトン
02 愛に狂って / エルヴィン・ビショップ
03 オフェリア / ザ・バンド
04 ロックンロール・ラブレター / ベイ・シティ・ローラーズ
05 狂気の叫び / キッス
06 マイ・ベスト・フレンド / クイーン
07 恋はドッキリ / スージー・クヮトロ
08 コーヒーもう一杯 / ボブ・ディラン
09 恋のブギー / シルバー・コンベンション
10 ソウル・ドラキュラ / ホット・ブラッド

 街のど真ん中に大きな工場を置くか普通。

 JR吹田という名の駅に降り立った少年がアパートに向かうためにはすぐそばにあるアサヒビール工場の塀沿いの長い道を歩かねばならない。ところで腹が減った。歩き出す前になにか食いたい。うどんだ。関西のうどんだ。ほーら、目の前にうどん屋があるじゃないか。うどんを食わずに何を食うのだ。キツネを注文する。たちまちカウンターに丼が置かれた。汁を通して丼の底が透けて見える。やはり大阪なのだここは。東京じゃない。静岡じゃない。これから新しい生活が始まるんだ。ここ吹田で。誰一人知る人のいないこの街で。汁を飲み干し丼を置いた少年は店を出る。向かおうアパートへ。ビール工場を左に。

 いい顔をしている。アルバム『欲望』ジャケに見るボブ・ディランの横顔は颯爽としている。触れればひりひりしそうな『Highway 61 Revisited』のディランも好きだが、こっちの方が数倍好きだ。縁のある帽子。無造作に結ばれたタイ。毛皮襟のジャケット。中南米の風に吹かれているかのような表情。視線の先には何がある。
 スカーレット・リヴェラのバイオリンが漂う中をエミルー・ハリスに寄り添われながら歌う「コーヒーもう一杯」のカップはきっとアルミかブリキだ。それも使い古しの。そうだ。コーヒー豆を買いに吹田の商店街に行こう。サイホンやミルも揃えよう。「モザンビーク」なんてブランドの豆があったら最高だな。ふんふん。
 そんな浮かれる少年を、しかし「ハリケーン」ただ1曲が吹き飛ばしてしまった。バック陣を一瞬戸惑わせようが、んなこたぁお構いもせず溢れることばを吐き出し続けるディランはなにかにとり憑かれたかのように熱い。なおかつこのテイクにNGを出さなかったディランはクールでもある。表現者として熱くかつクールなディランがここにいる。無実の罪で捕らえられたボクサー云々など知るまいが、英語が聴き取れまいが関係ない。

 「ショー・ミー・ザ・ウェイ」も「愛に狂って」も、ついでに「春うらら」も間違いなく吹田の街に流れていた。ビール工場のこの街に。しかし「狂気の叫び」は記憶にない。この曲は池袋の喫茶で流されたのだ。そうなんだ。少年はある日すっ飛んできたんだ大阪から東京に。大人になろうとしてなりきれなかった一日。

Dylan_desire


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