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音楽を食え

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 「音楽を食え」
 それを「食べてごらん私を。私という果実を」という言葉にそっくり置き換えていいと彼女に接するたび私は思う。ケイト・ブッシュという果実をだ。もうかれこれ10年以上という時の流れの入り口で赤いバレエ・シューズを履いていたケイトは「Eat The Music」と確かに言い放った。それきり音沙汰はない。

 件の「Eat The Music」ただ1曲と果実、果実、果実に埋め尽くされた内ジャケの鮮烈さを除けば93年のアルバム『The Red Shoes』は、しかし大したものではなかった。
 ケイトという果実が味わうべき果実であったのは1st『The Kick Inside(天使と小悪魔)』~5th『Hounds Of Love(愛のかたち)』まで、つまり70年代終わりから80年代中盤までの数年間だけだ。
 5枚のアルバムから選ばれオマケを付けて編集された『The Whole Story』はまるで一つのオリジナル盤を見せられているようだ。なによりそれが証拠だ。

 その『~ Story』を聴いている私は、音のニュアンスが微妙に異なるも、次々に現れる時代に媚びない楽曲や決して朽ちることのない詩によってイングランドの深い森の奥へと吸い込まれていく。当時のU2やらピーター・ゲイブリエルにダブるスティーヴ・リリーホワイト提供の内に向いたダンダスパスパなドラムス音が時代を感じさせる云々なぞこの際どうでもいい。

 「Cloudbusting」、「Hounds Of Love」、「Army Dreamers」、「Babooshka」あたりは今でもお気に入りだし、「Running Up That Hill」~「Army Dreamers」~「Sat In Your Lap」のリンクにはうぶ毛を逆立たされるし。とりわけ「Sat In Your Lap」に展開する変拍子、分厚く幾重にもせまるコーラス、そしてカラフルなリズムの洪水は鬼のようである。

 鬼にもなるケイトは菩薩である。ライオンにもなるケイトは猫である。ケイトという果実のそれがきっと正体だ。そんな果実を手に入れるには暖炉のある暖かい部屋の小窓から忍び込むのがいい。大丈夫。決して彼女は爪を立てることはしない。ほら、観音開きの奥に官能の海が見える。神秘の森が見える。手に入れた果実を食べてみろ。

 久しぶりにケイト・ブッシュを聴いてしまったのは、いつかアルバム・タイトルを使いたかったという恩田陸の小説『ライオンハート』を読んだせいだ。彼女はケイトのファンだとな。ちょっち嬉しい。

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