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どっちの観察会

 じっとしている。
 丸くなった石に身を寄せ水辺でじっとしている。ヒトが近づけば逃げていく他の仲間をよそにじっと丸まっている。
「あれはタシギだよ」
「タ・シ…なんだって?」
「え。どこどこ」
「昔は田んぼなんかでよく見たもんだ」
「わあ。きれい」
「なにが見えるのー」
「いやぁ。こんなところでタシギにお目にかかれるとはなぁ」
「寒いよー」
 老若男女の声が飛び交う。幼い声も混じる。レンズから目を離してみた。体温がみるみる奪われる感覚に気づき首をすぼめてフードを被る。ぶるる。風はほとんど感じられないのに頬に触れる空気はまるで氷のようだ。かじかんだ手で双眼鏡をもう一度目に当てる。うー寒っ。もしやあの水の中の方が温かいんじゃないかい。どうなんだタシギくん。

 こいつのクチバシは他の種類と比べても異様に長い。丸っこく縮めた体長とほぼ同じなんじゃないか。もちろん水中の餌を仕留めるためにはその方が都合がいいのだろうけどちょっとアンバランスじゃないか。そのアンバランスの各パーツに色が乗せられている。黒々とした丸い目。白っぽい薄茶の上にこげ茶を流した複雑で独特な縞模様の羽。そして長く伸びた褐色のクチバシ。自然の神は職人でもありアーティストでもある。寒さを一瞬忘れさせるほどの。
 動かないのをいいことにじっくり鑑賞させてもらったよタシギくん。…こちらこそ震えるきみたちをじっくり観察させてもらったよニンゲンくん。つぶらな黒い目はもしやそう言ってなかったか。

 他にはユリカモメを筆頭とするカモメ類の群。ひとりで目立っているアオサギ。ぷかぷか浮かんでるコガモなどのカモ類。ウミウやウミネコもいるぞ。こうした常連さんが川幅ざっと600メートルの河口でこの冬も羽を休めているのだった。年中棲み家にしているトンビやヒバリ、カラスはご愛嬌だ。一体全部で何種類がここにいるんだっけ。渡ってくるんだっけ。去年教えてもらったことをもう忘れている。約70種類ですよ。そばにいる去年と(たぶん)同じインストラクターが去年と(たぶん)同じように教えてくれた。はて。アナタ去年も同じ質問しませんでしたか。そうは言わなかった。さすがは日本野鳥の会だ。だてに双眼鏡覗いてカウンタかちかちするためにかつてNHK紅白に呼ばれていた訳ではない。最近出番ないのはどうして。間違っても、だからそう尋ねてはいけない。なにしろ日本野鳥の会だ。

 海を背にして河口を正面にすると視界の外に妙な違和感があった。首を向ければ左岸には建設中の巨大な病院が徐々にその存在を主張しつつあり、右岸には完成して1年になる風力発電の巨大プロペラが音もなくゆったりと回っている。それぞれ左右から野鳥たちの楽園を威圧するかのようでもある。鳥たちは、しかし今年もここにやってきてくれた。来年はどうだろう。また来てくれるよねタシギくん。風景をこうしてぼくたちニンゲンがだんだん変えてしまうけど。ニンゲンたちの観察においで。

 ●タシギ(田鴫)
  学名 Gallinago gallinago
  英語名 common snipe
  体長 27cm

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タシギは結構好きな鳥で、鳥見を始めた当初こいつを見つけたときはすごい珍鳥なのだと思いとても喜んだものです。今でもタシギを見つけるとちょっとうれしくなります。ヽ(^o^)丿 個体による変異が大きく、大きさや嘴の長さ、羽根の色までさまざまで、こんなに変化に富んだ鳥は少ないんじゃないかな? ← 私も参加していまぁ~す。ヽ(^o^)丿。ポチッ!とクリックしてやってねぇ~... [Read More]

Tracked on Sep 06, 2005 at 16:12

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