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マイ・オムニバス VOL.21 後

【あのハコにおせっかい】 75年 6/10

11 金色の髪の少女 / アメリカ
12 あの娘におせっかい / ポール・マッカートニー&ウィングス
13 追憶の日々 / シカゴ
14 君の胸に抱かれたい / ドゥービー・ブラザーズ
15 ヘイ・ユー / バックマン-ターナー・オーバードライブ
16 サタデイ・ナイト・スペシャル / レーナード・スキナード
17 恋はシャンソン / スリー・ディグリーズ
18 コール・ミー・ラウンド / パイロット
19 愛ある限り / キャプテン&テニール

 目覚めたら海の上だった。開いたかどうかの眼で甲板に出る。まぶしい。どうやら港に近づいているらしい。青森を出たのは確か夜中だったな。ぼんやりと思い出す。目の前の景色は次第に鮮明になる。カモメが飛んでいる。ポケットを探ってみる。大丈夫。切符は持っている。いよいよ函館か。北海道か。

 上野発の特急に乗ったのは前の日の夕方だった。列車の対面シートはどこから見ても美しい90度仕様だ。1時間ほどでじっと座っているのが我慢できなくなった。ごろりと横になる。それでも首や肩や腰が痛い。だが座っているよりはましだろ。本当に特急なのかこれは。福島、仙台、盛岡…。窓を見るとときおり四角く光る知った名前の電光表示板が通りすぎてゆく。ようやく90度から解放されたのは青森という表示板が光る駅のホームだ。蛾が飛んでいる。駅は暗闇の中に浮かんでいた。ホームだけが異様に明るい。皆についてゆく。最初で最後の青函連絡船に乗り込んだのだ。そこから先の記憶がない。

 あれはもしや地平線か。なんで地平線が見えるんだ。本当に日本なのかここは。函館を出てからまだわずかだというのに北の大地はその姿を惜しげもなくさらしている。見渡す限りの原野だ。手つかずの大地だ。今という時間というか時代というか、の感覚がなんだかおかしくなる。朝の列車に揺られながら少年はひとりごちた。がたんがたん。がたんがたん。

 気がつけば少年は一人札幌駅の前に立っていた。どこにでもあるような光景が日常に引き戻してくれる感覚を味わっていたか。いや、ただ単にぼけっとしていたのだろう。途方に暮れていたのだろう。だいいち宿の予約もしていなかったじゃないか。そもそもなにしに来たんだおまえはここまで。M子を連れてくればよかったかな。ふとそんなことが頭をかすめたのは心細さのせいだけではない。おいおい、連れてこれる訳がないじゃないか。というより親が許すはずがないじゃないか。なにしろあちらもこちらもこーこーせーなのだ。こーこーせーは清らかでなければならないのだった。とにかく来てしまったのだ一人でここまで。あとはなんとかなるだろ。

 少年は歩いた。札幌の街を歩いた。道庁のそばを。北大構内を。大通り公園を。どこに行ったって道幅が広い。さすがは北海道だ。それにしたって暑い。本当に北海道か。あそこでアイスクリーム買おう。日陰だけは涼しい。ベンチに腰掛けてふと視線を向けた先に"箱"はあった。広場の真ん中にだ。なんだか場違いじゃないか。他に何も置かれていない。誰からも忘れ去られたようにぽつんとたたずんでいるのだ。少年はやおら近づきそして触れてみた。ポケットから取り出したコインを入れボタンを押す。静けさを破るのはちょっとナニだったがとにもかくにも"箱"はその存在を主張したのだった。ボタンを押してすぐその場を立ち去る少年の背中にサックスだのギターだのドラムスだのが威勢良く飛びついてくる。歌もだ。"…listen to what the maaan saaaaaaid, he said…"。あとは頼んだポール。俺は宿を探す。

 …どこが「マイ・オムニバス」の話なんだ。

Mccartney_venus


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