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しなやかな枯葉

Sarah_crazy
 数にも限度というものがあるだろが。なんなんだ今年の台風上陸。前号の舌の根が乾かないうちにというか、爪跡が生々しく残っている中をというか、もういい加減にせえよ、な「次」が台湾近辺に待機していたのだ10月下旬。結局これは未遂に終わることになるが…。おいおい新潟は無防備だったんだぞ。浅間山は灰を撒き散らしていたんだぞ。しかしそのときの予想進路はそんな神経を逆なでするようにそこから右折だったのだ。きっちり直角で。

 直角か。俺は直角。そんな漫画がそういえばあったな。どこかの藩の若殿でさ。悪さばかりして家老にいつも追いかけられるんだ。城中を猛スピードで逃げるわれらが直角君はたとえば追い詰められた壁際できっちり90度に曲がるんだ。きゅいーんと。当然衝突するのは家老。壁板に。これがホントの痛かろう。…なに書いてんだ。だいいちそれているじゃないか話が。それるのは台風でよろしい。とにもかくにもこれ以上困らせてくれるな熊やクラゲを。落としてくれるな紅く燃えるはずの山々の葉を全部。いきなり枯葉じゃヤだぞ。

 という長い枕を経てようやくというか、強引にというか、本題に入るのであった。Sarah Vaughanのアルバム『枯葉』。歌い手サラ・ヴォーンは私が生まれる遥か昔からステージに立っていた。レコード盤にその声を刻みつけていた。少年も物心つく頃にはすでにその名前くらいは耳にしたかもしれない。おそらくその方面ではウルトラ有名な女性なんだろう。ってお前に言われるまでもないってか。ジャズに疎いそんな私にも彼女との出会いがあったのだ。リアルタイムで。それが82年の『枯葉』(原題『Crazy And Mixed Up』)なのである。結局これが最初であり最後でもあったが、まぎれもなく私は彼女と向き合ったのだ正面から。あれから20年。久しぶりに聴いてみる。

 なんていうんだろう。ふくよかなのに繊細。厚みがあるかと思えば髪の毛のような細さが。伸ばしたり、タメたり、刻んだり、つなげたり。それらをいとも簡単にその声で表現してしまう。まるで老練なボクサーのよう。一体何者なんだ彼女は。

 20年前と同じようにぶっ飛んじまうのが3曲目の「Autumn Leaves」だ。イントロはジョー・パスのギター。ぽろぽろこぼれるかのようなギターの音の粒が軽快に鳴る。しばし心地好い気分にひたる。…も束の間、突然火の出るようなサラのスキャットが始まるのだ。ジョー・パスはじめ、バックの面々の腕は相当なものなんだろうが、このスキャットの機関銃をただただ支えているのみ。ロックを好んで聴いてきた私にも容赦なく弾が浴びせかけられる。それは今回も同じだ。この凄まじさは、ロックがどうした、ジャズがどうしたなんてことを越えて、ある。スキャットの前で身動きのとれなくなる自分がいる。この感覚を何に喩えたらいいか。台風か。…違うな。

 このアルバムをリリースしてから数年後、サラは永い眠りに入ってしまった。がしかし土に帰ったはずの枯葉は今もなおしたたかに舞い、しなやかに跳ねている。

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