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麦酒の街の大リーグ

 イチローの周辺が騒がしい。ふん、お、オレだって高校卒業後の1年間はイチロー、イチローって呼ばれたぞ。…違うって。それにしても彼のベースボールに対する姿勢というかスタンスはある種のストイックさにおいて例えばスピード・スケーター清水宏保のそれに重なっている。自分の信じる道を極めようという点において剣豪宮本武蔵のそれともダブる。イチローが両者と違うのはストイックであり求道者でありながらスタジアムに足を運んだりTVのスイッチをつける人達の目を意識したエンターテイナーであろうとする姿勢を忘れていないところにある。どうして両立できるのこんなん。そんな彼は私の憧れの一人である。

 ところでベースボール。大リーグといえば私の刷り込みは74年のミルウォーキー・ブリューワーズなのだ。1ヶ月にわたるホームステイの間、スミス・ファミリーが私をあちこち引っ張りまわしてくれた中にブリューワーズのホームゲームがある。

 球場に向かう黄色いバスの中はミルウォーキーの名物といえばこれだろ、なビールの香りが立ちこめ、床にピーナツの殻があとからあとから捨てられてゆく。殻だらけ。バスの運ちゃんだって撒いてるぞ。もしや飲んでもいたか運ちゃん。で、歌なんぞ皆で歌いながら足踏みするもんだから当然細かくなるわな殻は。
 到着後、そんなバス放っといて乗客の皆さんうきうき球場へ歩く。回りを見るとあちこちのバスから似たような笑顔がぞろぞろ降りてくる。大きな声で歌ってるの、騒いでるのは数えきれず、すでに出来上がった赤い顔もちらほら。
 スタジアムに入った後もスタンドで飲むわ食うわ歌うわ騒ぐわ。何しに来たんだお前ら。が、ブリューワーズがチャンスを迎えるとそれが猫のようにおとなしくなるではないか。ようやく試合に集中したのだ。飲むのはビールでなく固唾である。じっと成り行きを見守っている。かーーんっ。抜けたっ。回れ回れっ。ほら矢のような敵の返球が来る。どうだ。どうなんだ……やった! こうして得点が入ろうものなら全員立ち上がって拍手喝さい。はたして大騒ぎは再開されるのであった。
 そんなこんなの時間が過ぎ、ふと足元を覗けばまたまたピーナツの殻の山だ。なんだよここでもかよ。って、よく見りゃおいらの真下でやんの。ふはは。結局負けてしまったその試合終了後もまだ続いてるのだ大騒ぎ。誰かがビールを空けた紙コップを天井に届くくらい積み重ねてゆーらゆら。ここでも拍手喝さい。なんていうんだろう。これが大リーグの楽しみ方、醍醐味なんだとにっぽんから来た少年は刷り込まれたのかもね。殻の捨て方も。

 あ、そうそう。大事なことを忘れてた。ハーフタイム(4イニングか5イニング終了後)に水撒きしグランドをならすにいちゃんおっちゃん達に混じって登場したのがアメフト顔負けのキュートなチアガールズだったんだ。むふふふ。いいなぁあれ。

「どう。興奮したかい」
帰りのバスの中でパパのリチャードは尋ねた。
「は、はい。あのチアガー…、あ、いや、楽しい試合でしたねっ」
バスの心地好い揺れは少年の上気した赤い頬をゆっくりと鎮めていった。

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