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めざせ大阪港

 海は穏やかだった。凪ぎといっていいかな。左手遠くに見える陸地は西宮、尼崎あたりか。波しぶきが無数の水滴となって船窓に張りつき、視界をぼやけさせている。私の目が近頃弱くなってるせいなのかそれとも。くそぉ、コンタクト新しくしときゃよかった、なんて思うのはこういうとき。とかいいながらまたすぐ忘れるに決まってるのだこのなまけもの。などとひとりごちてる私の視界が次第にクリアになってきた。そうか。船は港に近づいているのだな。もう天保山かよ。神戸の港を出てからまだざっと45分だぞ。しゅるしゅると滑るように進むなよ船。少しは落としたらどうだスピード。
 味わおうと思っていたあれやこれやがぽろぽろこぼれていった。

 一の谷の合戦に敗れた平家の軍勢が屋島へと逃れてゆく。それを追う義経が淡路に挟まれたこの大坂湾に船で乗り出したとき目の前の海に何を見ていたのだろう。やがて訪れるおのれの悲運ではあるまい。鯛やタコだったかもしれない。

 瀬戸の海を過ぎ、淡路を越え、ウィリアム・アダムズは日本人の漕ぐ和船の船べりからどんな思いで大坂の海をのぞんだのだろう。彼を追って堺の港に運ばれてくる瀕死のリーフデ号はまだ豊後にあるはずだ。後ろ髪引かれる思いだったか運命をともにしてきた船に。それとも大坂の巨城に待つ未来のボス、イエヤスという男に向いていたか心はすでに。関ヶ原直前のこの時期。ファースト・サムライ・フロム・イングランド。

 留学先のオランダで建造された幕府最強の軍艦開陽丸に乗り帰国する榎本武揚を待っていたのは幕末に吹き荒れる大嵐だった。鳥羽伏見に敗れた慶喜がその開陽丸とともに天保山からお忍びで脱出したことを知ったとき、残された武揚はどんな思いで眺めたことだろう大坂の海を。遠くつながる蝦夷の地におぼろげでも共和国建設の構想は描かれていたかこのとき。

 一体幾多の貿易家、商人、軍人、侍、貴族、なまけもの、大陸人、朝鮮人、南蛮・紅毛人、和船、洋船が兵庫や堺を含むこの大坂の海、今の大阪湾を目指したんだろうね。
 
 なんだか頭がくらくらしてきたのは海遊館をぐるぐる下りてきたせいではないな。コンタクトの度が合わないせいではましてない。炎天下でタバコを吹かしてたせいだきっと。目の前の安治川や天保山の海を眺めながら。

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Comments

はじめまして、つかけんさん。
ウェブログ始めたばかりのASAOといいます。
トラックバックさせてもらいましたので、一言挨拶にきました。
たまたま榎本武揚の話題が出てましたので・・・。
これからもよろしくお願いします。

Posted by: ASAO | Sep 01, 2004 at 16:24

コメントありがとうございます。
榎本武揚については最近の記事中「お茶を濁す<本>」にちょろっと載せた佐々木譲の『武揚伝』も読み応えがありましたよ。
慶喜脱出後の大坂城内の混沌を武揚が収拾してゆく描写は爽快です。その場で彼に協力する土方歳三の図も興味深いものがあります。

Posted by: つかけん | Sep 01, 2004 at 21:06

そうですかー「武揚伝」ですね。
今度本屋で探してみます。
情報ありがとうざいました。

Posted by: ASAO | Sep 05, 2004 at 23:17

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先日、近所のローソンでこの本を見つけました。 私はもともと、幕末の話が好きです。 [Read More]

Tracked on Sep 01, 2004 at 16:20

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