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雨に打たれていればいい

 有度山麓西側の大谷街道を南下していった終点に久能街道はあり、500メートルも進めば国道150号線に出る。いつものことだが、この瞬間が好きだ。大きく開ける視界に飛び込むのは駿河の海と彼方に横たわる伊豆半島なのだ。三保へ向かう150号線右手に横たうこの一大パノラマは、久能山東照宮を過ぎ、旧静岡と旧清水の境まで延々とつづいている。冬の季節、引き締まった青空に溶け込む駿河湾の群青の向こうには手を伸ばせば届きそうな伊豆の山々が石廊崎のあたりで海に落ちている。きりりとしたたたずまいである。久能の山にわしを葬れと命じた家康がこの図を目に焼きつけたことは間違いあるまい。西国に目を光らせるため云々という取ってつけたような理由など、この構図の前では跡形もないだろう。

 一方梅雨のこの時期、伊豆半島ははるか彼方にぼんやり、そしておぼろげに浮かぶだけのことが多い。山に降るべき雨は海にそのまま落ち、空と海をつなぐ無数の直線が目の前の紺碧を消してゆく。くすんだ駿河の海と雨に煙る伊豆の凌線は幻想的ですらあり、ぼんやり眺めているだけでも飽きることがない。有度山麓反対側の東海道から隔絶されるこの海道に歩を進めた幾多の人達は、この雨の景色を目にし何を感じたことだろう。

 黒い暖流に洗われつづけ、背後を日本の大屋根に守られたこの駿河地区は、全国でも稀有の温室エリアである。降り続く雪が町を白一色に染め上げ、覆われて見えなくなった日々の汚れを一時でも忘れさせてくれる、とはよく聞くが、それもその白が解けて消えるまでのことだ。その点、雪などまず積もることを知らないこの地では容赦無く叩きつける雨こそが日々の憂さやしがらみやあれやこれやをきれいさっぱりと洗い流してくれるのかもしれない。すぐそばの安倍川や巴川に。興津川や庵原川に。そして駿河の海に。

 もうやめよう傘を差すのは。雨に打たれていればいい。顔を洗って出なおしてくればいい。また明日がんばればいいのさ。だから、Let It Rain.

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