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マイ・オムニバス VOL.12 前

【土曜じゃなくても夜は生きがい】 73年 8/11

01 オール・ナイト / リンジー・ディ・ポール
02 土曜の夜は僕の生きがい / エルトン・ジョン
03 スモーク・オン・ザ・ウォーター / ディープ・パープル
04 嘆きのジプシー・ローズ / ドーン
05 キャン・ザ・キャン / スージー・クァトロ
06 アメリカン・バンド / GFR
07 ヤング・ラブ / ダニー・オズモンド
08 さよならを教えて / フランソワーズ・アルディ
09 エース・スプリーム / シルバーヘッド
10 落ち葉のコンチェルト / アルバート・ハモンド

 プロレス興行に使われることが多いそのホールは、どこか薄汚れ、かび臭かった。その夜、用意されたパイプ椅子はその半分以上が使われることもなく、そこに虚しく並んでいるだけだった。満員には程遠い。たかだか3割の客は、しかし、ステージ中央で振られる彼女の小柄な肢体に、ライトを浴び光る皮ジャンの黒に、そしてなによりも彼女のシャウトに、次第に釘付けとなっていった。吸い寄せられていった。気がつけば全員がステージ前に集まり、手を打ち、体を揺すり、胸を叩き、尻尾を振る。誰もがゴリラやワニになった。けもの達は「キャン・ザ・キャン」と叫び、「48クラッシュ」と連呼し、「悪魔とドライブ」したのだよ何度も腕や尾を振り上げて。境界はもとより、ステージや客席と呼ばれるものがすでに消え失せていたそこは熱帯雨林の中だ。その熱いジャングルで吠えていたのだスージー・クァトロは。向かい合うけもの達は。私もその一匹だった。

 イントロのぼっこんぼっこんが気持ち良くスピーカーを鳴らしている。スピーカーっても、中学校の木工室からくすねてきた廃材同然の合板に穴を開けて取り付けられただけの。砂遊びにでも使われそうな赤いポリバケツの上にその合板が乗っただけの。誰が見たってただのガラクタだこれは。そのガラクタのそばで口をぽかんと開けたまま固まっている小僧の図を想像してほしい。カセット・テレコ付属のスピーカー音しかそれまで知らなかった小僧にとって、このポリバケツ・スピーカーが産み出す重低音は革命的だったといっていい。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」も、「オール・ナイト」も、「エース・スプリーム」も。どいつもこいつも気持ち良くポリバケツを鳴らすことになるのだ。その中で一番の快感を彼に与えたのが「アメリカン・バンド」なのである。こうして彼はトッド・ラングレン云々なぞ知らずとも、「孤独の叫び」なぞ知らずとも、彼らGFRのファンとなる。ぼっこんぼっこん。

 収録アルバムで聴くべきだ。誰が何と言おうとそうして聴くべきだ。息つかせぬ「Your Sister Can't Twist」が終わるや否や打たれる八分音符3つのドラムス導く「土曜の夜は僕の生きがい」のイントロは、やれやれと一息つきたい出鼻をくじくのに十分すぎる。誰が考えたんだこの流れ。前曲の激しさを少しも損なわないまま、少しピッチを落としたビートがまた小憎らしい。参った。アルバム『Goodbye Yellow Brick Road』の聴きどころはそりゃもう数多くあるのだが、この「Your Sister~」から「土曜の~」への流し方。その曲間に髪の毛一本挟める程度の空白。絶妙とはこういうことなのだろう。

 優れた旋律は繰り返し使われる運命にある。パクリだの拝借だの意図されただの。そんな次元を超え、ニンゲンの意志に関係なく使われ続ける運命にある。それでいいのだ。優れた旋律が優れている理由はそこにこそあるのだから。宙をさまよう旋律の宝石は常に居場所を求めているのだ。良質な作品を自ら嗅ぎ分け、引き寄せ、入り込む。生を得た旋律は、あとは歌い手に、演奏者になぞらせるだけだ。「Love Love Love」で吉田美和に歌わせ、「クラシック」でYUKIにサビを繰り返させ、「ピリオドの雨」エンディングで吉井和哉にギターのフレーズを延々と弾かせる。私はそのどれもが美しいと思う。色や肌触りは違っても。20年の時を超え、「落ち葉のコンチェルト」に宿る美は蘇っていたのである。

 …ちょっち散漫ね今回。今回もか。


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