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音楽水先案内人

 高校・大学時代は置くとして、音楽を共通の趣味とする私の友人は中学時代にも少なからずいた。

 ユーライア・ヒープに狂っていたバレー部のエースアタッカーM。真っ赤なポストに毎日見送られ迎えられる郵便局の倅である彼は「対自核」ばりのアタックを次々と相手コートに叩き込んでいた。また一人は、レコードプレイヤーすら無かった私のヨダレを垂らすオーディオ装置を持ち、シカゴのアルバムをずらりと並べてニヤニヤしていた吹奏楽部所属で髭もじゃのN。こいつはトロンボーン吹きだった。ジェイムズ・パンコウには相当イカれてたクチである。

 で、忘れられないもう一人がいる。私の洋楽黎明期にカセットテレコをぶら下げていたあのSである。輪の中心にいたSである。

 高校卒業後、東京で一緒に生活しような、という私の一言を待っていながら、あっさり大阪の予備校に行ってしまう私を嘆き、1年後に江古田の喫茶で別れることになる少女…振られたのはつかけんの方、と正直に書けよ…と奇しくも同じ年、同じ大学に入っちまっていたS。運命のいたずら。というのはオマケの話。っと、なに昔の彼女を持ち出してんだおまえは。

 Sは中学校の修学旅行で女の子の部屋に侵入し、それが担任の耳に入るやホテルの廊下に正座させられ、くだんの担任の履いていたスリッパでぺっこんぺっこんに引っぱたかれた男である。ちなみに他のクラスだった私は同じことをしながら難を逃れたズルイやつである。

 洋楽という海の、Sは水先案内人だった。ジョージ・ハリスンの「美しき人生」やらカーペンターズの「動物と子供達の詩」やらツェッペリンの「ロックンロール」やらを安物のテープレコーダーやプレーヤーで教えてくれたのは彼だ。私がT.レックスにハマり出した頃、彼のお気に入りはスレイドだった。「メタル・グルー」?「20センチュリー・ボーイ」だってぇ? ちっちっ、スレイドの「グッドバイ・ジェーン」とか「カモン!」を聴いてみろよ。な。こっちの方が全然いいだろ? スレイド?んなのどこがいいんだよぉ。やっぱマーク・ボランの震えるボーカルが最高だがや。…てな対等なやりとりが嬉しかった。その後20年近くが経ち、そのぐちゃぐちゃというか、猥雑というか、がご機嫌な気分に浸らせてくれるスレイドの曲々をしっかり抱え込んでいる自分がいた。スレイドって結構楽しいよな。私がそんなセリフを伝えようとしたとき、しかし、Sは消息不明だったのである。

 元来風来坊のSと最後から二番目に会ったのが池袋の24時間喫茶で、夜通しチェット・アトキンスが流れていた店。コーヒー一杯だけを注文した二人は安っぽいピンク色のソファーに転がりそのまま眠った。翌朝Sに連れられてR大に向かう私は学食で少女と待ち合わせていたのだった…というのもオマケの話。Sとの最後はそれから数ヶ月先、一年遅れで大学に入学した私の草加の下宿、である。ほぼ同じ頃少女と別れる私に教えてくれたのが、彼曰く"すっげぇ"にっぽんのバンド、サザン・オールスターズだった。「勝手にシンドバッド」を超える彼らの曲は無いと言い切ってしまう今、Sは最後まで私にとって水先案内人だったのだ、と今思う。

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