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走れ大沢在昌

 彼の『新宿鮫』シリーズ。ここ1年ほどで何作かを読んだ。『~無間人形』あたりが面白かった記憶はあるが、ほとんどの内容をもう忘れてる。主人公の刑事鮫島はともかく、ロック・バンド、フーズ・ハニーのボーカル晶という名の恋人との絡みが出てくるともうダメなのだ。彼女の匂いがどうにもこうにも苦手な私は、晶を一度も登場させてはイケナイ、彼女を一度たりとも思い出させるシーンを作ってはイケナイ、という条件を満たさなければこのシリーズをもう読まないだろう。ファンの方ごめん。ブラック・ジャックにピノコちゃんは絶対外せないのに。というのは関係ない話なのよろさ。アッチョンブリケ。

 その点、薬物依存者のサポートと私立探偵という二足のワラジを履く『佐久間公』シリーズはまだいい。内容を忘れさせない。だって読んだばかいなのよさ『雪蛍』。ストーリーの重要な鍵を握る人物に二組の親子、計4人を登場させて私を混乱させたその『雪~』といい、失踪した漫画家の捜索を依頼された佐久間の前に立ちはだかる「ご主人様」女子高生令の本心に迫る『心では重すぎる』といい、撒き散らす暴力と背中合わせにある脆さ、弱さ、屈折した甘えがずしずし響く。削ぎに削ぎ落とされたセリフは光るナイフのようだ。

 とりわけ『心では~』の重厚な味わいったらない。ちょいとがっかりさせられたエンディングの温かさを除けばぐいぐい私を引きずり込んで離すことはなかった。一番のお気に入りは遠藤という名の若い二代目ヤクザ。次第にその頭角を表していく一見華奢な遠藤の一挙一動の裏に見せる漆黒の美しさの描写には舌を巻くしかない。ヤクザを描かせたら大沢在昌の右に出る者はいないのではないか。東直己はまだまだ。浅田次郎は炊き方が違う。花村萬月くらいか。

 そんな大沢の作品をひとつ挙げろと言われれば、『走らなあかん、夜明けまで』である。サラリーマン坂田氏がヤクザの世界に巻き込まれ奮闘する、という至極単純なストーリーである。大沢の作品は、複雑な描写の真骨頂、な先の『新宿鮫』や『佐久間公』を含めてストーリーそのものはどれもがいたってシンプルだったのだ。この『走らなあかん~』ではその複雑な描写をあえて避け、終始スピーディでときにコミカルなタッチに仕上げている。まるで一筆書きだよ一休さんの。カバンを取り返し、ミナミのキャバ嬢真弓を救う。ただそれだけのためにヤクザに殴られ、蹴飛ばされ、いたぶられ、渡り合う。夜のミナミを「走り」つづけるスピード感が心地良い。徹夜で駆けずり回った大阪の放つ色や匂いはサラリーマン坂田氏のこれからの人生に何を与えたのだろう。

 これなら厳寒の北海道を舞台に繰り広げられる続編『涙はふくな、凍るまで』も面白いに違いない。と期待したらば…。ありゃ、こっちは手を抜いてやんの。な、なんなんだ大沢在昌ってやつぁ。

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Comments

こんにちは。
「走らなあかん」は大塚ネネさんが良い感じでした。
アルバイト探偵シリーズもなかなか軽い感じでよろしいかもしれませんよ。

Posted by: 夏川 | Jun 20, 2004 at 17:47

コメントありがとうございます。
夏川さんご紹介の「大塚ネネさん」ってもしや女優さんですか。
「ネネさん?だれやねんそれ」とまるでミナミの住人のようにつぶやく私は映画はもとより芸能界全般に疎かったりします。
そもそも「だれやねんこれ。だれやねんあれ」と誰彼つかまえては聞いて回るのが私の癖でもあります。
どうやら『佐久間公』シリーズも映画化されてる模様ですね。ちょっと同僚にでも尋ねてみますね。「なんやねんそれ」というセリフが返ってきたら私はこうつぶやくでしょう。「なんでやねん」

Posted by: つかけん | Jun 20, 2004 at 21:19

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