« 佐々木譲 『ストックホルムの密使』 | Main | 佐藤多佳子 『神様がくれた指』 »

松岡圭祐 『催眠』

 多重人格障害に苦しむ入絵由香を軸に回る物語。カウンセラー嵯峨敏也が最も主たる脇役であり準主役といっていいだろう。40年間という由香の人生を遡る中で両親との絡みが出てくるが、このあたりは予想範囲。予想範囲といえば、銀行から二億円を横領した人物が早くから見えてしまうのも物足りない。物足りないといえば、嵯峨を含めた登場人物の背中に背負っているものがほとんど見えないこと。ある意味一面的、類型的に描かれていてつまらない。せいぜい、嵯峨の上司である倉石と、ニセ催眠術師実相寺則之の両者の人間臭さ、弱さ、のみが生き生きしているだけだ。だいたい準主役の嵯峨がどうしてこうも由香を救おうとするのか。白石一文『一瞬の光』の主人公と比較してしまうのもナニだが、嵯峨をそうさせるナニモノカが見えない。それさえ見えてくるなら他のアラを吹き飛ばしてくれたのに。

 ふーむ、もしやこの小説は嵯峨を借りた筆者のメッセージなんじゃなかろうか、精神異常や催眠やカウンセリングや、に対する誤解を解きたいちゅう。そう考えれば、同時進行する一輪車に乗れない女の子とその両親がセンターの女性カウンセラーと続ける格闘云々がストーリーから浮いてるのも分かろうというものだ。

 にしても、作品としてエンディングへ向かう流れはまぎれもなく鮮やかかつ痛快だし、催眠療法のなんたるかを真摯に描ききっているのは素晴らしい。え!作者って心理学の専門家でもある? 本物の催眠療法士の肩書き? おいおい。

|

« 佐々木譲 『ストックホルムの密使』 | Main | 佐藤多佳子 『神様がくれた指』 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11727/70898

Listed below are links to weblogs that reference 松岡圭祐 『催眠』:

« 佐々木譲 『ストックホルムの密使』 | Main | 佐藤多佳子 『神様がくれた指』 »