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あのほしきれいだね

「金星がよく見えるよ」
 夜遅く職場を出た気温零下の駐車場で先日同僚にそう言われた。
「キンセー?」
 そもそも金星ってどこにあるのだ。それを悟られまいと、
「本当だ。輝いているなぁ」
「そっちじゃないよ。こっち」

 そういやこうやって星を見ることも最近ほとんどなかったんだ。首を曲げるのが辛くなったからというのはまぁ置いといて、本当に夜空を眺めることが減った。でも、少年時代なら違ってたと思う。あの頃は…

「ごらん。あれがカシオペアさ。あれが冬の三角形。あのひときわ輝く星がシリウスで…」
「つかけんさんて素敵」
「ふっ でもぼくは星を映す君の瞳を見ている方がずっと好きだ」
 冬の天空。聞こえるのは波の音。肩を抱き寄せようとしたそのとき、
「あれはわたしの星!」
「え?ど、どれ?」
 夜空を突き刺す可憐な人差し指のずっと先には一体何という星が。
「死の星なの」
「…?」
「私の爪を見て」
 ふと見ると桜貝のようなピンク色の中に黒い点が一つ。
「これが私の星。 私の命も長くて一ヶ月」
「そ、そりゃ大変なこって」

 ちょっと違うか。はは。ともかく、星空の下にたたずんだまま見上げるゆとりを今の自分は無くしている。さすがに空気が冷たく澄みきるこの季節くらいはごくたまにちらりと見るかもしれないけど、南天で戦う武者と牛を確認する程度かな。それに街々の無神経な明かりがここ地方都市でも北極星すら見つけるのに苦労させる時代なのだ…というのは言い訳か。ロケットから眺める夜の日本列島こそ輝く「一等星」の集まりだ、なんて聞いたようなセリフを吐く私。

 昨夜、自宅を出てカシオペアの「W」を寒空に探してみた。なんだ、見つけることができるじゃないか。嬉しかった。
「おとうさん、あのほしきれいだね」
「そうだね」
 気がつけば小さなレディの小さな手に握りしめられていた私は、少年時代を忘れかけていたオトナであった。きらきら輝く小さな彼女の瞳こそまぶしい。

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