おめでとう

そうか。もう一巡りすることになるんだ。ぼくが東京か大阪かで悩んだあのときから。


初めてきみを抱いたとき、こわれそうなきみを抱いたとき、どこにそんな力があるのかとばかりにきみはぼくの指を握った。

失明するかもしれないと医者に言われたとき、夜中中病院を探して走り回ったとき、目を開けないきみは泣くこともせず、ぼくに抱かれたまま笑っていた。ずっと笑っていた。


あれからときは流れ、きみはきみになり、きみはきみの道を歩き始めた。

きみはあのときのぼくが悩んだように悩むかな。

ぼくと同じように東京か関西かで悩むかな。

まだ一ヶ月以上先のことだろうけど。

だけどね。この春、もう一巡りすることになるんだよ。

そんなぼくの感慨を知ることもなく、きみは歩いていけ。


一つ目のサクラサクおめでとう。

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静岡に月昇る

Kazuyoshi


 二月六日。

 夕刻五時、幕は切って落とされた。そこから月が昇りきる夜八時までの波猛る3時間。ステージに立つ斉藤和義は私を圧倒した。し続けた。


 2階席から眺めると、くまなくステージを見渡すことができる。
 積み上げられた重量アンプ群に巨大スピーカー。並べられた各種機材。ステージ中央後方で存在を主張するドラムセット。コの字に置かれたキーボード達。無造作に立て掛けられたギター。隅に控える小柄なピアノ。銀にきらめくスタンドマイク。蛇のように床を這う何本ものコード。レーザー光を客席に向かって発射するための装置はご愛嬌。舞台は奇をてらわず、いたってシンプルだ。

 主役はひょろりと登場した。期待通りだ。
 耳をつんざく大音量のイントロがとどろき、「Come On!」が始まる。間髪入れずに「Love & Peace」へなだれ込み、休む間もなくもう1曲歌う。どれもこれもがハイテンション。ここでようやく一服。それまでの轟音が消え去った中、嘘のようなテンションの低い声で「ぃえ~い」。さすが和義。この肩の力抜き加減と繰り広げていた演奏の凄まじさとのギャップったら。

 静岡は清水出身のベーシストとのやりとりから話題はイルカに。なんでイルカなんだ。


和:なんか静岡の人ってイルカ食べるって聞いたんですけど本当?(へらへら)
和:スーパーとかで普通に売ってるの?(くにゃくにゃ)
客席のあちこちから飛ぶ、「売ってるよー」。
和:うまいんですか。
「うまいよー」。
和:へえ。(もごもご) えー、静岡は久しぶり。
「5年ぶりーー」。「せっちゃん、待ってたよーー」。
和:あ、そうだったっけ。じゃあ10年後にまた来ますね。
「ええーーーーー!」。
和:うそでーす。(えへえへ) またすぐ来ますよ、はい。(ふはふは)
和:静岡って東京から新幹線なんかですぐだから、(公演会場として)よく飛ばされちゃうんですよねえ。栃木もそうですけど。(ひゃいひゃい) でね、静岡は暖かいところだから、女性が皆うんと薄着でいればもっと来るんじゃないかなあ。そうですねえ、シースルーだったりすれば文句なく寄ってきますよ。(えへらえへら)


 その後のMCはさらにエロトーク一色。もちろん歌にも盛り込む。「彼女は言った」の中で突然始める男女二人の情事のやりとりを一人二役で。最後に"女性"がぼそりと「おちんちんっ」。かかか。全く期待を裏切らないよこいつは。もっとやれやれーーっ。

 去年リリースしたアルバム『月が昇れば』収録曲すべてを歌い、合間に昔の曲々や企画物として発表した品をはさむ。私が気になったのは昨年NHKのドラマのために作り、使われたという「愛の灯」と、伊坂幸太郎原作の映画『ゴールデンスランバー』の主題歌。案の定ビートルズのカバーだね。2つとも初めて聴いた。特に「愛の灯」はよかった。今度探してみよ。

 昔の曲っても、まさか「空に星が綺麗」を歌うとは思わなかった。嬉しい誤算だなや。「社会生活不適合者」もそう。欲をいえば「幸福な朝食 退屈な夕食」も入れてほしかったけど。お決まりであろう「月影」、「君の顔が好きだ」、「歌うたいのバラッド」、「歩いて帰ろう」なんかは予想通りの期待通り。「歩いて帰ろう」を皆で歌っていたら、胸を溢れてくるものがあり、左の目尻から何かが頬を伝ってきた。なんなんだ。「歌うたいの~」を一緒に口ずさんでいたときもそう。おいおい。まさかこんなことになるとは思いもしない。けっ。流れるなら流れていろ。俺は今幸せなんだ。

 それにしても、ミュージシャンがそこにいるだけで、動くだけで、歌うだけで、なんてステージってあんなに美しく映るんだろう。へなへな歩き、じゃかじゃかギターかき鳴らす和義を見ながらつくづく思った。あそこに私も立ちたい。


 轟音が止んだ会場を後にし、ふと空を見上げてみた。昇った月は確認できなかったけど、いつもより「空に星が綺麗」なのは間違いなかった。冬の天空は思わず澄み渡っていた。

 歩いて帰ろう。駐車場まで。はは。

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ポリス跳ぶ

 あれから(っていつから)ポリスを聴き返している。もう10何年振りになるくらい久しぶりだ。スティングやコープランドのソロにもそろそろいこかな。サマーズにはいかないけど。

 今回はかつて私を虜にした彼らの初期の作品について二言三言。

Police_outlandos


 『アウトランドス・ダムール』 1978年

 私が洋楽から距離を置き、にっぽんのミュージシャン達に浮気していた頃、ポリスという名はもう買うこともなくなっていたミュージック・ライフ誌等のグラビアを飾る三人組のそれであり、音を聴きもせず、ミーちゃんハーちゃん、あるいはお子様御用達だと私にくくられるバンドのそれにすぎなかった。「Can't Stand Losing You」も「Roxanne」も「Born In the 50s」も私に届くことがなく、次のアルバム『Reggatta De Blanc』も私の知らないところできっと鳴ってはいたのだろう。今思えば。…私は何をしていたのだろう。

 ようやく彼らの音や姿を見聞きすることになったのは単なる偶然だ。おそらく当時来日中だったんじゃないか。それはたまたまチャンネルを合わせたNHKの「レッツ・ゴー・ヤング」かもしれないし、民放の「夜のヒット・スタジオ」だったかもしれない。音や映像の悪さは5千円もしない中古のテレビということで仕方のないこととはいえ、にっぽんのアイドル連中を脇に置きながら響かせるスティングの甲高い声"ドゥードゥードゥー、デダァーダァーダァ"が、けっ、なんだこいつら。やっぱり見るんじゃなかった。と私に思わせたことは確かである。…私は何を見ていたのだろう。

 それから4年後、1stアルバム『アウトランドス~』の大津波が私を襲うことになる。いきなりだ。まるでチリ地震である。慌てふためく私をよそに、彼らはすでにラスト・アルバム『Synchronicity』の準備に入っているではないか。ちょ、ちょっと待てくれい。

Police_reggatta


 『白いレガッタ(Reggatta De Blanc)』 1979年

 「チリ地震」だった1stの衝撃から一月も経たないうちに手に入れた2ndである。骨の髄までしゃぶり、舐め尽くした血を滴らせる口が新たな肉にかぶりつくのは必定といえよう。私は獣であった。なまけものではないぞ。け・も・の。さあ、こちらの味はどんなもんじゃい。

 初っ端「Message In A Bottle」は売れ線狙いや軽みがちょっと気に入らないものの、1stアルバムの飛び跳ねる様は継続されていて、まあ許せる。

 嵐は2つ目の曲中に吹き荒れていた。タイトルナンバー「Reggatta De Blanc」。出だしはいつもの軽いレゲエのリフで始まり少し不安、も束の間、じわんじわん激しくなっていく3人のコンビネーション。絡み。うねり。頃合を見計るように飛び出す唸り声「いおーーいえーーいえーーよっ」。いつしかそれが「いぇいぇいぇいぇい……」に変わったかと思ったら後はもう彼らの艶かしくも激しいビートとリズムに身を沈めるのみ。もはや逃れられない。スチュワート・コープランドが繰り出す阿修羅なドラムス・ワークにハマり、恍惚状態だ。お経のようにずーっとこのまま続いて欲しい。が、フェイドアウト。ちぇ。ちぇ。で、3曲目はシンプルなのだが激しいのがよろしい。許す。アンディ・サマーズがかき鳴らすギターの間奏はちょっと70年代しててもっと聴きたい、と思ったら、これも途中で止めやがんの。なんなんだおまいら。生殺しってか。

 彼らの音はどれもがテンション高く、なかなか気を抜けない。感覚はいつしか麻痺してくる。そこに登場する4曲目は、はたして高ぶった神経をほぐしてくれるのだ。なんだこのギャップ。なんだこのタイミング。まったく小憎らしい。ところで、この曲タイトル「Bring On The Night」は後にスティングがソロ・アルバムに使うことになるくらいだから、彼のお気に入りでもあるのだろう。

 「Walking On The Moon」からがB面だったかな。LPレコードをひっくり返すという行為の"ちょいと一服"感は捨てがたかったね。さて、この曲は仮にボーカル無しだったとしても、なんだかタイトル通りの気分にさせてくれる不思議な一品だ。軽い浮遊感とでもいうか。絵を描いてる感覚に近い。で、7曲目のボーカルはサマーズかいな。コープランドかいな。どうでもいいか。私はこういう曲のこういうビートがたまらなく好きなのだ。

 趣向を変えた10曲目「Does Everyone Stare」の趣味は誰のだろ。これはいい味出してる。なんてのほほんとしてたらラストの「No Time This Time」に突入だ。やたっ。これぞ1stアルバムの乗り。チープだけど、どの音やボーカルも団子になってぐんぐん迫り、ぼこぼこぶつかってくる。で、あっという間に終わり。

 ポリスはこうして次々に後追いを続けながら、結局1stと2ndを越える作品にはお目にかかれなかったと、30年経った今でも思う。

 兎にも角にも、初期のはちゃめちゃに魚が飛び跳ねる様がポリスには絶対似合う。リアルタイムで聴いた『Synchronicity』は完成度の高さを認めながらも未だに馴染めないでいる。多分もう聴くことはないだろなこれ。


 それにしてもだ。どうしてもっとシンプルに書けない。音楽のことだけで正面切って書こうとするとたいてい私はこうなる。散漫でぐちゃぐちゃでだらだらな文章。ああ、やだやだ。が、こんなみっともないものを捨てるだけの恥じらいこそ、私はとっくに捨て去っているのである。むはは。んじゃアップする。許せ。

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歩いていこう

Sting_mercury
 私は今どこを歩いているのだろう。好きなように歩いてはきたが、気がつけばここにいる。はて。ここは一体どこなんだ。どこって、ここはここじゃないか。そうか。ここでいいのか。私は歩くべき道を歩いてきたんだな。ふむ。

 さて、ならばここからどこを目指していこう。


 またまた古い書き込みで恐縮なのだが、13年前、私はぼそりと真夜中のモニターの前でこうつぶやいている。


 「歩き方」

 歳を重ねるってのはどういうことなんだろう。

 それをもしかするとそっと教えてくれる一人がかつてのロックミュージシャン、スティングなのかもしれない。

 スティング。今でも衝撃として私の中に刻まれる数々の曲、例えば「Can't Stand Losing You」、「Born In The 50s」、「Reggatta De Blanc」…。大関ポリスはあっという間に深い海を一つ作り上げて消滅してしまった。後追いの私には電光石火。『Synchronicity』という極みは、しかし、初期の火の玉のような性急さと荒削りを好む私には素直に入っていけないエリアにある。その後の1stや2ndソロ・アルバムの世界は私をしばし楽しませてくれたものの、やがてなにやら妙な分別臭さやら肩肘張ったかのようなスタンスをそれ以降の彼に嗅ぎとってしまった私は、その向こうに見えていたはずの真摯と誠実ささえかったるく感じられた。それは近作の『Ten Summoner's Tales』までつづくことに。

 彼は彼なりに歳を重ねていったのか。

 『Mercury Falling』を聴く。初めて。

 先日、まさかいるはずもないだろう小さな中古CD屋に彼がいた。右手を額に当てたモノクロの彼は私が来るのをずっと待っていたのか。新品のオレには見向きもしないオマエは必ずここに来る。そしてオレに出会う。見透かしたかのようなその横顔。"縁"としかいいようのない感覚にとらわれたまま私はレジに持っていく。それからずっと彼は私の一番近くに置いてある。他のどのCDよりも。

 今、聴き終わった。ちょいと前まで持ち続けていた私の思いは木っ端微塵。ここには肩肘張った顔も、分別臭い顔もない。あるのは穏やかに音楽を楽しむ顔。その裏の真摯な顔。なにより余計な力を抜いて微笑みながら歳を重ねていく顔。なにか吹っ切れたかのような、風呂上がりのような味わいがある。

 どうしてそんなに清々しくなれたの。

 今の私は相変わらずもがいている。肩を怒らせている。そんな自分が嫌いなわけではないが、このまま歳を重ねていくのもなぁ、なんてつぶやく自分もいる。なーんてこと普段考えてもいないと思ったのに。このCDを聴いたらバレちまった。実はどこかで考えていたってことを。

 ポリスのデビューからここまで彼が歩いた道は私にとって興味深い。今の私は目の前にいる彼にはまだ程遠いが、一つのヒントをもらったような気がする。

-97/02/22 01:38 @niftyFBEAT【洋楽温故知新部屋】-


 そかそか。当時の私はもがいていたんだな。肩怒らせていたんだな。可愛いもんだ。っても、それじゃあ今のおまえは力を抜いてゆったり構えているのか、穏やかに歩を進めているのか、と問われて、うん、そうだね、と即座に返せるのか。どうなんだ。………。けっ、修行が足りねえよ。

 だけど、まあいいじゃない。今の私のままでも。修行なんかいらないさ。

 行く先かい。風に聞いとくれ。さあ行くよ。歩いていこう。

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MUSIC 2009年

 さーてさて、ついに音楽2009年の収穫だいっ。アルバム一つ一つに対する思いの丈をいざ綴らんっ。

 …なーんてね。

 あれこれ書くのがなんだか急にメンドくさくなってきたぞ。というか、ここんとこ私にしてはちょっとハイペースなのだよこれでも、ぜえぜえ、更新。とりあえずランキングをアップしたらば放ったらかしにしよ。そもそもランク付けといっても、4位まで浮かんだはいいが、後が続かない。次点の中から残り6つを見繕えってか。無理、無理。

 んじゃここらへんで。退散、退散。


 <BEST1~4>
Matsu_harvest
1 松たか子  『Harvest Songs』  03年


Wilco_wilco
2 Wilco  『Wilco (The Album)』  09


Caetano_ce
3 Caetano Veloso  『Ce』  06


Sambo_kodomo
4 サンボマスター  『音楽の子供はみな歌う』  08


 <次点20(ミュージシャンのアルファベット順)>
・ aiko  『秘密』  08年
・ Jane Birkin  『Arabesque』  02
・   〃    『Enfants D'hiver』  08
・ Elvis Costello & The Imposters  『Momofuku』  08
・ The Doors  『The Doors ~Premium Edition~』(DVD)  03
・ Bob Dylan  『Together Through Life』  09
・ エレファントカシマシ  『昇れる太陽』  09
・ Grant Lee Buffalo  『Mighty Joe Moon』  94
・ Chaka Khan  『Funk This』  07
・ Love Psychedelico  『Golden Grapefruit』  07
・ 中森明菜  『Special Live 2005 Empress At Club eX』(DVD)  06
・ Raspberries  『Raspberries』  72
・ 斉藤和義  『月が昇れば』  09
・ サンボマスター  『サンボマスターは君に語りかける』  05
・   〃    『僕と君の全てをロックンロールと呼べ』  06
・ 椎名林檎  『私と放電』  08
・ Weezer  『Weezer (Red Album)』  08
・ Paul Weller  『22 Dreams』  08
・ Neil Young  『Fork In The Road』  09
・ omnibus  『Jewel Songs ~Seiko Matsuda Tribute & Covers~』  02

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父娘

Shion_shiori
 三浦しをんのエッセーは、どれもが自分や友人、家族、あるいは日常のあれやこれやをすくっているだけだと思われる(まだ二冊しか読んでない)が、お茶目で、痛快で、自虐的で、際限がない。気がつけばするりと入り込んでいる妄想シーンは宇宙戦艦ヤマトの波動砲をもってしても止められないだろう。切り込みや着眼は自分のそれにひたすら忠実で、ペンは一見だらしなく運ばれる。それらがすべて心地よい。

 『人生劇場』に出てくる、戦後間もない頃じいちゃんがどこぞから持ってきたたくさんのコンドームの一つだけがべろーんと伸びたままになってた顛末云々の、茶をずずと啜りながら進むばあちゃんの回想、を含むしをんとの下ネタ談議なんか秀逸だ。

 『しをんのしおり』に登場する「高倉健の日常」は、健さんの起床シーンから始まるのだが、これでもか、これでもかと、微に入り細に入りどんどん進んでいく。勿論これは全部彼女の妄想なのだけど、あまりにも「らしく」て空いた口が塞がらない。膨らみ続けるこの妄想は誰にも止められないよなぁ。ていうか止めてほしくない。彼女が言うように、朝の入浴の描写なんかも続けてほしかった。

 かと思えば、こんなスケッチも彼女はする。


 最近ちょっと情緒不安定で、井の頭線に乗っている父娘の姿を見ただけで、なんだか涙があふれてきたりする。
 女の子の背丈はまだお父さんの腰ぐらいまでしかなくて、身じろぎもせずに父親にぺったりとくっついてドア付近に立っている。父親は小さな娘の肩に優しく手を乗せていて、たまに頭を撫でてあげたりする。彼女の髪の毛がこごっていることに気がついて、父親は指先でそっとほどく。女の子はその間も黙ったままで、すごくおとなしく安心しきって父親に抱きついている。彼女は電車の中でもう本当に自分の父親だけがすべてなんだなあ、と思ったら、ちょびっと泣けてきてしまったのだ。……後略……

━━『しをんのしおり』から「二度目の青い果実」より抜粋


 バレちまったよ。普段は無意識の中に閉じ込められていたはずの私の弱点、というかツボ。忘れかけていた私の急所。突然ほじくり返しやがって。押しやがって。一体なんなんだよぉ、三浦しをん。

 しをん御本人が云々に関係なく、この一節は私の琴線に触れ、うろたえさせ、大晦日最後の私の涙腺を緩ませてしまったのである。

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BOOKS 2009年

 いつぞや白状したように、今年読んだ本で思い切りぶん殴られたものは無い。まぁ次に期待しよ。出会いは必ず訪れるものだ。それも突然。いつだって。

 と言いつつ、ここに来ていくつか収穫と呼べそうなブツが現れたぞ。あらら。万城目学、三浦しをん、朔立木あたりの作品だ。特に万城目と三浦は読書好きの人から借りて読み、ハマってしまった。

Makime_princess
・ 万城目学  『プリンセス・トヨトミ』

 これを馬鹿馬鹿しいと一言で片付けていいものか。いいわけないよなぁ。物語の着想、というか、発想の桁が並外れている。秀吉の正室ねねの時代からハイテクを駆使した現在の日本までというスケール。どいつもこいつも立ちまくった登場人物達のキャラ。なんなんだこいつらのギャップの大きさは。ミスマッチさは。真面目であり、滑稽であり、悲愴ですらある。どこもかしこもでこぼこ。和田竜の『のぼうの城』をちょっと連想させる。ああ、堪んねぇ。

 代々伝えられたある使命を忠実に果たすべく、ある日黙々と大阪城を目指す120万人以上の大阪の男達。120万て…。東京から派遣された会計検査官の松平がその120万人と対峙する場面。一体なんなんだこれは。うう、堪んねぇ。

 確執のあった父が近づく死を悟ったとき、息子である松平に託そうとしたであろうもの。それに松平が気づいたことを仄めかすシーンこそ、このストーリー最大の肝なんじゃないかな。どうだろう。


 この物語に出てくる「空堀商店街」は実在すると、ぼくがきみにこの本を返したとき、きみは教えてくれた。だから行ってみたいと、きみは続けて言った。じゃあ一緒に行こうかと、ぼくは笑いながら言った。


 <その他印象に残った本>
・ 三浦しをん  『光』
・  〃     『人生激場』
・ 天童荒太  『悼む人』
・ 朔立木  『暗闇のヒミコと』
・ 小池真理子  『午後の音楽』
・ 桐野夏生  『天使に見捨てられた夜』
・ 香納諒一  『幻の女』
・ 伊集院静  『羊の目』
・ 白石一文(監修)  『この世のすべてを敵にして』


 <今読んでいる本>
・ 北川歩実  『金のゆりかご』


 <これから読むだろう本>
・ 和田竜  『小太郎の左腕』
・ 浅田次郎  『ハッピー・リタイアメント』
・ 白石一文  『ほかならぬ人へ』
・ 宮沢章夫  『時間のかかる読書』

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エレカシかくあるべし

Elephant_taiyo
 今年、久しぶりにエレファントカシマシがバンド然としたアルバムを出した。『昇れる太陽』というタイトルの。偶然なんだろうが、斉藤和義の『月が昇れば』とカブるな。というか対照、んにゃ、対称的か。んなことはともかく、21世紀のエレカシはやっぱりこういう風に弾けてくれなくっちゃ。エアロスミスなんか蹴飛ばしてやれいってなもんで。

 NHKで始まっている『坂の上の雲』的時代を思わせる書生っぽさの匂い立つ初期の彼ら、というか宮本ヒロジの書く詩や歌いまわしも良かったが、後追いの私にとっては『風』(2004年)と『俺の道』(2003年)がいまだに頂点である。以前も書いたように、「平成理想主義」~「達者であれよ」~「友達がいるのさ」ちゅう出だしの3曲に狂わされ、エンディングの「風」に漂う余韻で私を鎮めてくれたアルバム『風』は誰が何と言おうと彼等のマスターピースである。それに負けてないのが『俺の道』だ。度肝を抜かせた「生命賛歌」から「俺の道」への流し方ったら絶品この上ない。

 この両作にヤラれてしまった私がかけたその後の彼らへの期待は、しかしながら裏切られることになる。『町を見下ろす丘』(2006年)も『Starting Over』(2008年)もなってない。薄っぺらな音。そう。サウンドが分厚くなかったのだ。メロディも弱い。ユーミンのカバーなんかやってくれなくてもいいのに。何故前作のように団子のカタマリとなってぶつかってきてくれなかった。そう感じてた。

 そうした音に対する不満は、ようやく今回の『昇れる太陽』で解消された。これだよこれ。これを待ってたのだ。特に「おかみさん」と「It's My Life」がいい。「おかみさん」は詩も特筆できる。間もなく22世紀だね、な2100年の未来風景の中、のんびり布団を干すおかみさんの図。このミスマッチ。違和感。非日常と日常の対比。シュールだねぇ。乗せるサウンドはとにかく激しく豪快だ。うねりまくってる。『風』の「平成理想主義」ほどではないにせよ。

 1曲目「Sky Is Blue」もまずまず。ただね、2曲目「新しい季節へキミと」はどうだろう。このどこにも隙のない完成度の高さはどうだろう。うーん。ちょっとなぁ…。ラストの「桜の花、舞い上がる道を」もなぁ。こういう風に歌い上げてほしくはなかった。…といういくつかのケチをつけても前作、前々作と比べればお釣りはくる。

 さて、2000年代も終わりが見えてきたので、21世紀に出た彼等のアルバム番付をして今回はお茶濁そ。


・東の横綱 『風』
・西の横綱 『俺の道』

・大関 『ライフ』

・東の関脇 『昇れる太陽』
・西の関脇 『扉』

・小結 『DEAD OR ALIVE』

・前頭10枚目 『町を見下ろす丘』

・前頭13枚目 『Starting Over』

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月が昇れば

Kazuyoshi_tsuki
 師走も目の前。もうこれで人生何度目になるんだろう、ないつもの1年の終盤に入っている。ということとは関係ないと思いたいが、相変わらず身の回りは慌しい。今月も突然の「別れ」を二つも数えてしまった。二人とも私にとって大切な仕事仲間である。平均寿命の半分程度で逝っちまうんじゃねえよ馬鹿。残された子供はまだ小学生なんだぜ。俺だってまだガキなんだぜ。

 こんなことが度々続くと、私も人生そろそろいいかな、なんて思わなくもない。そんな瞬間がある。十分好き勝手なことしてきたし。思い残すことは無い気がする。アメリカに残してきた第二のパパやママにもう一度会ってはおきたいけど…。好きな女と宇宙のどこかにでも消えちまいたい。…おいおい、一人で行けよ。誰かを道連れにすんじゃねえよつかけん。

 とか言いながら、せっせとCDを買ってる年末恒例の私がいるのはどういう訳だ。…まぁいいか。私ゃ気まぐれなのだ。昨日は昨日。今日は今日。明日は明日。


・Al Kooper 『White Chocolate』
・Neil Young 『Fork In The Road』
・Jimi Hendrix 『Stockholm Concert 69』
・Bob Dylan 『Together Through Life』
・ 〃    『Tell Tale Signs』
・くるり 『魂のゆくえ』
・曽我部恵一BAND 『ハピネス!』
・椎名林檎 『三文ゴシップ』
・山下達郎 『タツロー・フロム・ナイアガラ』
・EGO-WRAPPIN' AND The GOSSIP OF JAXX
 『EGO-WRAPPIN' AND The GOSSIP OF JAXX』
・小野リサ 『Cheek To Cheek』
・ 〃   『Look To The Rainbow』
・エレファントカシマシ 『昇れる太陽』
・斉藤和義 『月が昇れば』
・ 〃   『Collection“B”1993-2007』
・逆鱗×斉藤和義 『Fish Story』


 ここ1ヶ月ほどで溜まったCDだ。予約中のブツを含んでるけど。それにしても、近頃洋楽がめっきり減った。

 この中で一番新しく手に入れたのは斉藤和義の『月が昇れば』である。和義についてはここで何度か取り上げているので今更言うべきことはない。少なくとも日本のミュージシャンで一番多くその作品が私のライブラリーにある、そんな存在なのだ。ピアニスト村松健といい勝負だ。

 『月が~』は、久しぶりに和義がほぼすべての楽器を担当して仕上げた"自己中"アルバムだ。私が初めてぶん殴られた『ジレンマ』以来じゃないか。しかし、冬はスコットランドの海岸に吹きつける北海からの強風に耐えうるフィッシャーマンズの厚手セーターのようなごわごわした肌触り、ざっくり感、シンプルさは、残念ながらここにはない。サウンドにも。歌詞にも。漂うのは欲張ったカラフルさ。それがちょっち不満。

 が、彼のこの最新アルバムを最近よく聴いている。思い残すことはない、とホザいた私であるが、彼のライブをまだ一度も見たことがないのだ。ここ地方都市の小さなライブハウスで数年前開かれた彼の小さなステージを私はスルーしている。思い残すことがまだあったのだ。

 来年2月初旬。彼は再びこの町に来る。この町に月が昇る。

 消えるのはそれからでもいい。

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君じゃなくてもよかった

Matsutakako
 初めて出会ったときの衝撃というものがある。人にも本にも音楽にも。しかも、それが見知った人や音楽だったりするともういけない。たちまち私はそれまで見過ごしてきた、あるいは見て見ぬ振りをしてきた「過去」を遡るのだ。お決まりのパターンである。そして、その見過ごしてきた時間を深~く後悔することが多々ある。

 が、その逆も、少数ながら、ある。初対面の衝撃を結局超えられずに終わるもの。音楽に限るなら、例えばDonovanのベスト盤、小野リサのベスト盤、荒木一郎のベスト盤等。…なんだよベスト盤、ベスト盤て。ふへ。

 今年09年にもなってようやくお目にかかった松たか子も、その少数派に入ることになりそうだ。もう6年前の作品になるのだけど、『Harvest Songs』(2003年)を聴いたときの衝撃、というか、目からぽろぽろ落ちるウロコの数ったらなかった。今までなにしてたんだ俺は。なに避けてたんだ。くそ。色眼鏡をかけてたんだよなぁ俺は結局。慌てた私が彼女の過去の作品をかき集め、一つ一つ貪り食ってみたのはいうまでもない。ライブを収めたDVDまで買っちまった。

 しかーし、しかしだ。どれ一つとして『ハーヴェスト~』を超えるものがない。今しがた過去の4作品からピックアップした自分用オムニバス盤を聴き返してみたが、みるべきものはほとんどないことを再確認するだけに終わった。勢いだけで選んじまったことがよく分かる。


【松たか子 EARLY COLLECTION 1997-2001】 edited by つかけん

01 I Stand Alone
02 A Piano Piece For Carol
03 東京バード
04 からいかれ
05 Wind Song
----------------------------
06 Kisses
07 Stay With Me
08 On The Way Home
09 20 Candles
10 あくび
11 恋するギョーザ
12 君じゃなくてもよかった
13 Just A Flow
14 あなたへ
----------------------------
15 エール
16 夏の記憶
17 真夜中のギター
18 夕焼けワルツ
----------------------------
19 ゆびさき


 1stアルバム『空の鏡』から選んだ#01~05は、彼女の軸足がまだ女優にあることが伺える、手探り感ありありな作品である。それ以上でもそれ以下でもない。#06~14を選んだ『アイノトビラ』は、余裕というか欲が少し出てきたのか、いろんな楽曲を彼女に歌わせながら、彼女の色を出させているのが分かるし、少なくとも『空の鏡』よりは音楽に向き合おうという姿勢が見て取れる。9曲もこのアルバムから選んだそれが理由だと思う。その後の2枚『いつか、桜の雨に…』と『a piece of life』は、しかし凡庸である。吹っ切れていない。選曲がそれぞれ4曲、1曲とさびしい結果に終わっている。「ゆびさき」なんて体裁整えるために無理やり突っ込んだかも。

 やっぱり、『Harvest Songs』を超える作品は無いんだな。むー。この"目からウロコ"アルバムについては、その後の『僕らがいた』や『Cherish You』と合わせて後日、稿を改めたい。


 これで終わるのもなんなので、このオムニバスからの聴き物を3曲挙げて〆る。

 「君じゃなくてもよかった」
 「Kisses」
 「エール」

 この3つは好きだ。特に「君じゃなくても~」は詩と楽曲、それにアレンジがいい。「Kisses」が歌う内容は身も蓋も無いんだけど、シンプルでいい。このストレートさがいい。

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